デルマニアのブログ

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とある皮膚科医のブログです。

1~4歳児のピーナツアレルギーに対する舌下免疫療法は安全かつ有効 米研究より

 1~4歳児のピーナツアレルギーに対する舌下免疫療法(sublingual immunotherapy;SLIT)は、安全かつ効果的に脱感作が得られ、またその効果は本療法終了後も3カ月は維持されることを明らかにしたランダム化比較試験の結果が、「The Journal of Allergy and Clinical Immunology」に10月10日掲載された。

 米ノースカロライナ大学チャペルヒル校のEdwin H. Kim氏らは、1~4歳児50人(平均年齢2.4歳、女児44%)を対象にランダム化比較試験を実施し、ピーナツアレルギーに対するSLITの安全性と有効性を検討した。対象児は、36カ月にわたってピーナツ蛋白質によるSLITを受ける群(25人、以下SLIT群)とプラセボ(オート麦)を使ったSLITを受ける群(25人、以下プラセボ群)にランダムに割り付けられた。SLITは、2.5μgのピーナツタンパク質の1日1回投与(舌下に2分間置き、その後飲み込む)から開始し、投与量を4カ月ごとに漸増して最終的に維持量である4mgに到達させた。治療開始後36カ月の時点で、ピーナツタンパク質を順に3、10、30、100、300、1,000、3,000mg(最高累積耐容量4,443mg)投与する二重盲検プラセボ対照食物負荷試験(DBPCFC)を実施することで脱感作の評価を行った。この際、全量を摂取して、2時間以内に所定の「中止基準」を満たさなかった場合を「合格」とした。累積耐容量が443mg以上に達した児は治療を終了し、その3カ月後(治療開始から39カ月後)に再度DBPCFCを実施して、寛解(効果が維持されている)であるか否かの評価を行った。

 36カ月後のDBPCFCを完了したのは、SLIT群の76%(19人)とプラセボ群の68%(17人)で、前者の64%(16人)、後者の16%(4人)が39カ月後のDBPCFCを完了した。累積耐容量の中央値は、SLIT群の方がプラセボ群に比べて有意に高く(4,443mg対143mg、P<0.0001、t検定)、合格した率も有意に高かった〔ITT解析60%対0%、per protocol(PP)解析79%対0%、いずれもP<0.0001、t検定)。39カ月後における寛解率も高かった(ITT解析48%対0%、PP解析63%対0%、いずれもP=0.0005、t検定)。

 DBPCFCと免疫学的変化を対象児の年齢別(ベースライン時)に検討したところ、脱感作および寛解率は、1~2歳児(脱感作、寛解の順に、ITT解析:75%、58%、PP解析:100%、78%)、2~3歳児(ITT解析:50%、33%、PP解析75%、50%)、3~4歳児(ITT解析:43%、43%、PP解析50%、50%)の順に高く、低年齢ほど良好だった。

 さらに、PP解析の対象となった者について、多重比較用Dunnett混合効果モデルを適用し、ピーナツ皮膚プリックテスト(SPT)、ピーナツ特異的免疫グロブリンIgG4、ピーナツ特異的IgG4/IgE比の経時的変化(12、24、36カ月後)を検討したところ、SLIT群ではSPTの膨疹径(mm)がベースライン時に比べて治療開始からいずれの時点でも有意に縮小していたが(同順でP=0.0012、P=0.0003、P<0.0001)、プラセボ群では有意な変化は認められなかった。ピーナツIgG4の中央値については、プラセボ群で経時的な低下が認められたが有意ではなかったのに対し、SLIT群ではいずれの時点でも有意な上昇が認められた(同順でP=0.030、P=0.003、P=0.004)。ピーナツ特異的IgG4/IgE比については、12カ月後では有意な変化はなかったが、SLIT群で24カ月後と36カ月後に有意に上昇し(同順でP=0.029、P=0.017)、プラセボ群では有意な変化はなかった。

 安全性に関しては、一般化推定方程式とFisher正確検定を使用してSLIT群とプラセボ群の比較を行った。SLIT群で口腔咽頭のかゆみの報告件数がプラセボ群よりも多かったが(80%対28%、P=0.0005)、皮膚、胃腸、上気道、下気道、および症状が複数の器官・臓器にわたる有害事象の発生頻度は両群間で同程度だった。

 Kim氏は、「この研究で確認された脱感作レベルは予想以上に高く、経口免疫療法で通常得られるレベルと同等だった。また、この治療法による効果がすぐに消失することはなく、治療中止から3カ月が経過しても60%以上で脱感作が維持されていたことも重要だ」と同大学のニュースリリースで述べている。

 なお、複数の著者が、製薬企業やバイオテクノロジー企業との利益相反(COI)に関する情報を明らかにしている。

アトピー性皮膚炎「デュピルマブ」の治療効果、経過の層別化で予測可能に 理研ほか、研究成果は、「Journal of the European Academy of Dermatology and Venereology」にオンライン掲載

 抗インターロイキン(IL)-4/13受容体抗体デュピルマブは、アトピー性皮膚炎の根本治療薬として期待される一方、投与後に顔面の紅斑が残存する難治症例も報告されている。理化学研究所情報統合本部先端データサイエンスプロジェクトの芦崎晃一氏らは、人工知能(AI)の機械学習による階層的クラスタリングを用いてデュピルマブの治療効果を層別化した上で、紅斑の重症度と関連する因子を検討。年齢、性、乳酸脱水素酵素LDH)などが関連し、治療経過を高精度に予測できるとJ Eur Acad Dermatol Venereol2024年2月26日オンライン版)に報告した。

早期寛解群、緩徐改善群、残存傾向群に層別化

 芦崎氏らは、野村皮膚科医院(横浜市)で2018年7月~21年7月にデュピルマブ治療を受けた15~71歳のアトピー性皮膚炎患者49例を対象に、顔面の紅斑の評価と分析を実施した。紅斑の重症度は重症度指数(EASI)スコアを用い、2週ごとに最大16週にわたって評価した。また、デュピルマブ投与前と投与後16週目付近で行った血液検査の結果についても検討した。

 まず、デュピルマブ投与前後の紅斑スコアの経過を教師なし機械学習の階層的クラスタリングを用いて分類したところ、早期寛解群、緩徐改善群、残存傾向群に大別できた(図1)。

図1.デュピルマブ治療による顔面の紅斑症状経過の時間変化パターン

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LDHはデュピルマブ投与前後で特徴的な変化

 続いて、年齢、性、血液検査データからデュピルマブの治療効果予測に重要な因子を特定するため、教師あり機械学習手法である勾配ブースティング決定木のLightGBMで予測モデルを構築し、各因子の変数重要度を算出。モデルの精度は受信者動作特性(ROC)解析の曲線下面積(AUC)で評価した。

 早期寛解群と残存傾向群を比較した2クラス分類モデルのAUCは0.86と、高い精度を示した。10歳代、40歳代、50歳代、男性で残存傾向が高かった。また、検査データにおける重要な因子として、LDH、IgE、好酸球、白血球、ハンノキアレルギー、スギアレルギーの6つが挙げられ、早期寛解群と比べ残存傾向群ではデュピルマブ投与前の値が高かった。特にLDHは投与前後で特徴的な変化が認められ、投与前の中央値は早期寛解群の方が低かったのに対し、投与後には残存傾向群の方が低い傾向を示した(図2)。以上の結果から、これらの因子がデュピルマブの治療効果を予測する指標として利用できる可能性が示唆された。

図2.検査データに基づくデュピルマブの効果予測因子

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視覚化することでモデルの予測を直感的に理解

 さらに芦崎氏らは、代理モデルを用いて勾配ブースティング決定木による分類の視覚化を行った。代理決定木の視覚化で、治療前のデータからどのように分岐して治療経過を予測するかを図示でき、患者が早期寛解群と残存傾向群のどちらに属するかの予測を直感的に理解することが可能となる(図3)。

図3.モデル解釈のための代理決定木の視覚化

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(図1~3とも理化学研究所プレスリリースより)

 同氏らは「今回の基礎研究は、アトピー性皮膚炎治療だけでなく、さまざまな治療選択における将来の医療支援ツール開発のための実質的な基盤を提供し、個別化された治療アプローチの実現と臨床現場での意思決定の有効性を高めることが期待できる」と結論している。

アトピー治療中の紅斑に関連する因子を特定 AIモデルでデュピルマブ治療効果を高精度に予測!

 抗インターロイキン(IL)-4/13受容体抗体デュピルマブは、アトピー性皮膚炎の根本治療薬として期待される一方、投与後に顔面の紅斑が残存する難治症例も報告されている。理化学研究所情報統合本部先端データサイエンスプロジェクトの芦崎晃一氏らは、人工知能(AI)の機械学習による階層的クラスタリングを用いてデュピルマブの治療効果を層別化した上で、紅斑の重症度と関連する因子を検討。年齢、性、乳酸脱水素酵素LDH)などが関連し、治療経過を高精度に予測できるとJ Eur Acad Dermatol Venereol2024年2月26日オンライン版)に報告した。

早期寛解群、緩徐改善群、残存傾向群に層別化

 芦崎氏らは、野村皮膚科医院(横浜市)で2018年7月~21年7月にデュピルマブ治療を受けた15~71歳のアトピー性皮膚炎患者49例を対象に、顔面の紅斑の評価と分析を実施した。紅斑の重症度は重症度指数(EASI)スコアを用い、2週ごとに最大16週にわたって評価した。また、デュピルマブ投与前と投与後16週目付近で行った血液検査の結果についても検討した。

 まず、デュピルマブ投与前後の紅斑スコアの経過を教師なし機械学習の階層的クラスタリングを用いて分類したところ、早期寛解群、緩徐改善群、残存傾向群に大別できた(図1)。

図1.デュピルマブ治療による顔面の紅斑症状経過の時間変化パターン

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LDHはデュピルマブ投与前後で特徴的な変化

 続いて、年齢、性、血液検査データからデュピルマブの治療効果予測に重要な因子を特定するため、教師あり機械学習手法である勾配ブースティング決定木のLightGBMで予測モデルを構築し、各因子の変数重要度を算出。モデルの精度は受信者動作特性(ROC)解析の曲線下面積(AUC)で評価した。

 早期寛解群と残存傾向群を比較した2クラス分類モデルのAUCは0.86と、高い精度を示した。10歳代、40歳代、50歳代、男性で残存傾向が高かった。また、検査データにおける重要な因子として、LDH、IgE、好酸球、白血球、ハンノキアレルギー、スギアレルギーの6つが挙げられ、早期寛解群と比べ残存傾向群ではデュピルマブ投与前の値が高かった。特にLDHは投与前後で特徴的な変化が認められ、投与前の中央値は早期寛解群の方が低かったのに対し、投与後には残存傾向群の方が低い傾向を示した(図2)。以上の結果から、これらの因子がデュピルマブの治療効果を予測する指標として利用できる可能性が示唆された。

図2.検査データに基づくデュピルマブの効果予測因子

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視覚化することでモデルの予測を直感的に理解

 さらに芦崎氏らは、代理モデルを用いて勾配ブースティング決定木による分類の視覚化を行った。代理決定木の視覚化で、治療前のデータからどのように分岐して治療経過を予測するかを図示でき、患者が早期寛解群と残存傾向群のどちらに属するかの予測を直感的に理解することが可能となる(図3)。

図3.モデル解釈のための代理決定木の視覚化

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(図1~3とも理化学研究所プレスリリースより)

 同氏らは「今回の基礎研究は、アトピー性皮膚炎治療だけでなく、さまざまな治療選択における将来の医療支援ツール開発のための実質的な基盤を提供し、個別化された治療アプローチの実現と臨床現場での意思決定の有効性を高めることが期待できる」と結論している。

尋常性ざ瘡(ニキビ)に対するバクテリオファージ療法、臨床試験開始 大阪公立大、試験の詳細はjRCT(jRCTs051230164)に記載

抗菌薬の代替治療法の一つとして注目されるファージ療法

 大阪公立大学は1月18日、尋常性ざ瘡(ニキビ)患者を対象としたバクテリオファージ療法に関する臨床試験を開始することを発表した。この研究は、同大大学院医学研究科皮膚病態学の鶴田大輔教授、立石千晴准教授、ゲノム免疫学の植松智教授、藤本康介准教授らの研究グループによるもの。試験の詳細はjRCT(jRCTs051230164)に記載されている。

 薬剤耐性菌による死亡者数は2050年には世界で1000万人を超えると推定されており、国際的な医療問題となっている。新規の抗菌薬開発は非常に困難を極めており、代替治療法の創出が急務となっている。このような状況を踏まえて、抗菌薬とは異なる機序の治療法の開発が世界中で進んでおり、バクテリオファージを用いた治療法(ファージ療法)が代替治療法の一つとして注目されている。バクテリオファージは、細菌(バクテリア)に感染するウイルスの総称であり、略して「ファージ」とも呼ばれる。特定の細菌に感染するウイルスであるファージを用いて、細菌が原因となる病気を治療する手法のことをファージ療法と呼ぶ。抗菌薬に薬剤耐性をもっている細菌に対しても耐性菌を壊すことができる可能性が期待されている。しかし、日本国内ではヒトに対するファージ療法の実用化は全く進んでいない。

耐性菌を生じることもある尋常性ざ瘡(ニキビ)を対象に、安全性・効果を評価

 今回研究グループは、化粧品として日本国内でも販売されているロシアのミクロミル社製造のファージ製剤(日本名称:イスクラファージスキンバランス、ロシア名称:ファゴデルム)を用いて、皮膚の慢性炎症性疾患の一つであり耐性菌も生じることのある尋常性ざ瘡(ニキビ)患者を対象に、安全性および効果の評価を目的とする臨床研究を行う。

 尋常性ざ瘡は、皮膚の慢性炎症性疾患の一つである。皮脂の分泌が多いことや毛穴の先が詰まることで、毛穴の中に皮脂がたまり、炎症が始まる。この皮脂のたまりには、アクネ菌が増えやすい状態になっている。アクネ菌はどんな毛穴にもいる常在菌であるが、数が増えると赤いぶつぶつしたニキビや膿がたまったニキビの状態になる。

 研究グループは、「治療の切り札としてのファージ療法の国内実用化を目指した大変重要な臨床研究になる。研究グループ一丸となり、研究を進めていきたい」と述べている。

食物アレルギーに画期的な治療薬が登場か FDA approves omalizumab: Groundbreaking treatment for food allergies, including peanuts

 米国食品医薬品局(FDA)は2003年、注射用オマリズマブゾレア)を中等度から重度の持続性アレルギー性喘息の治療薬として承認した。2024年2月16日、オマリズマブは、免疫グロブリンEを介する食物アレルギーを経験する1歳以上の患者において、アナフィラキシーショックのリスクを含むアレルギー反応を軽減するために承認された最初の薬となった。これにはナッツやその他の一般的な食物アレルギーが含まれる。FDAの承認は、今週『The New England Journal of Medicine』に掲載された研究に基づいている [2]

 ジョンズ・ホプキンス小児センター、ジェネンテック社、スイスの製薬会社ノバルティス社の研究者がこの研究を主導した。米国国立衛生研究所(NIH)の一部である国立アレルギー・感染症研究所(NIAID)が資金を提供し、食物アレルギー研究コンソーシアム(CoFAR)が実施した。研究結果は、2024年2月25日に開催される米国アレルギー喘息免疫学会年次総会で発表される予定である。

 この研究では、180人の参加者を対象に16~20週間のオマリズマブ注射とプラセボ注射の効果を比較した。参加者の年齢は1~55歳で、177人は17歳以下であった。研究参加者は全員、ピーナッツアレルギーの既往があり、他に少なくとも2つの食物アレルギーがあった[2]

 参加者はオマリズマブまたはプラセボ注射を受ける群に無作為に割り付けられた。16週間後、オマリズマブを投与された参加者の66.9%が600ミリグラム以上のピーナッツタンパクに耐えることができた。プラセボ注射を受けた参加者のうち、同じ量に耐えられたのは6.8%だけであった。オマリズマブの投与を受けた参加者は、卵、小麦、牛乳、その他のナッツ類などの一般的な食物アレルゲンに対する耐性も増加した[2]

 耐容量は、偶発的な曝露後の反応から患者を守る可能性がある。600ミリグラムのピーナッツタンパク質は、約2.5個のピーナッツに相当する。従って、ピーナッツアレルギーのある人は、ピーナッツの摂取を避ける必要はあるが、ナッツ類1個に誤って摂取しても反応するリスクは減少する。

 多くの研究参加者は、さらに大量のピーナッツを摂取することができた。参加者の大半は、ピーナッツタンパク質約4,000ミリグラム(ピーナッツ約15個分)に耐えることができた。ほぼ50%の参加者は6,044ミリグラムのピーナッツタンパク質、すなわち約25個のピーナッツに相当するピーナッツに耐えることができた[2]

 オマリズマブはまた、複数の一般的食物アレルゲンに対する耐性を一度に増加させた。オマリズマブを投与された参加者の69%が、2つの食物1,044ミリグラムの累積用量に耐えることができた。また、約47%が3種類の食物に対して1,044ミリグラムの累積量を耐えることができた[2]

 研究者らは、60人の参加者をさらに24週間追跡した。その結果、ほとんどの参加者の反応閾値は、オマリズマブの使用を継続しても変わらないか増加した。さらに、オマリズマブはこれまで1歳未満の小児を対象とした臨床試験が行われたことがなかったため、研究者らは、特に最年少の被験者における安全性の懸念をモニターした。

 研究者らは、最大で小児の8%、成人の10%が少なくとも1つの食物アレルギーを有していると指摘している。食物アレルギーを持つ人の最大86%が複数の食物に対してアレルギーを持っている。2024年2月16日にオマリズマブが承認される以前は、食物アレルギーの治療薬として承認されていたのはピーナッツ(Arachis hypogaea)アレルゲンパウダー-dnfp(Palforzia)のみであった。2020年1月にFDAによって承認されたPalforziaは、ピーナッツアレルギーアレルギー反応を緩和するためにのみ使用され、他の食物アレルギーの耐性を改善することはない。この薬剤は4歳から17歳の小児を対象に承認されており、偶発的な曝露後のアナフィラキシーを含む重篤なアレルギー反応のリスクを軽減することができる[2][1]

 本研究のエビデンスは、オマリズマブ食物アレルギー患者のQOLに大きな影響を与える可能性を示唆している。偶発的な曝露による重篤な反応のリスクを低下させるだけでなく、研究者らによれば、この治療法は、食物アレルギーを持つ多くの人々が日常的に経験する偶発的な曝露に対するストレスや恐怖の一部を取り除く可能性がある。

 食物アレルギーのアドボカシーに携わる全米最大の非営利団体であるFARE(Food Allergy Research & Education)のCEOであるSung Poblete博士、RNは、オマリズマブに関する声明の中で次のように述べている。

 「ゾレア[オマリズマブ]が食物アレルギーに対してFDAに承認されたことを大変嬉しく思います。これは私たちのコミュニティにとって大きな勝利です。患者さんは、この新しい治療の機会を得ることができます。ジェネンテックとノバルティスのチーム、第3相臨床試験を円滑に進めたCoFAR施設、そして最も重要なことですが、この試験に志願して参加してくれた勇敢な患者さんに感謝します」[3]

 しかしながら、オマリズマブを使用する人は、アレルギーのある食品を避け、緊急時のために自己注射用エフェドリンを携帯し続ける必要がある。この研究では、オマリズマブを投与された参加者の14%が、たった30ミリグラムのピーナッツタンパクに耐えることができなかった。さらに研究者らは、この研究には参加者の多様性の欠如を含む限界があったと述べている。オマリズマブの有効性については、より広範な集団を対象としたさらなる研究が必要である[2]

 

  1. FDA approves first medication to help reduce allergic reactions to multiple foods after accidental exposure. (2024).
  2. Study Led by Johns Hopkins medicine finds injectable drug used to treat asthma and other allergic conditions may limit reactions in people with multiple food allergies. (2024).
  3. Statement by Sung Poblete, PhD, RN, CEO of FARE, regarding Xolair receiving FDA approval for food allergies. (2024).

www.mdlinx.com

実験段階の薬が腎臓病治療に大きな前進をもたらす? 透析が時代遅れの治療法になる可能性も

 実験段階にある腎臓病の治療薬「BI 690517」によって腎障害により悪化した尿中マーカーが有意に改善することが、米ワシントン大学腎臓病学臨床教授のKatherine Tuttle氏らが実施した同薬の第2相臨床試験で示された。慢性腎臓病CKD)患者にBI 690517を投与したところ、主に肝臓で作られるタンパク質であるアルブミンの尿中濃度の低下が認められたという。詳細は、「The Lancet」に12月15日掲載された。尿中アルブミン濃度は長年にわたって腎臓病の進行度を評価するための指標として使用されている。Tuttle氏は、現行の診療を変え得る「かなりインパクトがある研究結果だとわれわれは考えている」と話す。

 米国腎臓財団(NKF)によると、腎臓には体内から老廃物を排出する、体内のミネラルのバランスを維持する、血圧を正常に保つ、などの重要な機能があるが、これらの機能が失われるとCKDの状態になる。CKDは心臓病や糖尿病などのほかの慢性疾患に関係することも多い。また、CKDが進行して透析が必要となる人も多い。

 Tuttle氏らの説明によると、体内ではアルドステロンと呼ばれるホルモンがナトリウムカリウムの量を調節し、血圧を安定化させる役割を果たしている。しかし、アルドステロンが過剰に分泌されるとこのプロセスに異常が生じ、腎臓病の進行が加速する。

 厄介なのは、腎臓病に対する標準的な薬剤であるアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬とアンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)を長期投与すると、アルドステロンが増加する傾向がある点だ。Tuttle氏は、「アルドステロンが腎臓や心臓の炎症や線維化の大きな要因の一つであることは、数十年前から分かっている。だが、アルドステロンを治療の標的とすることは極めて難しかった」とワシントン大学ニュースリリースで説明している。

 今回報告された臨床試験は、まず、ACE阻害薬またはARBを使用中で、推算糸球体濾過量eGFR)が30~90mL/分/1.73m2未満、尿中アルブミン/クレアチニン比(UACR)が200~5,000mg/g未満、血清カリウム値が4.8mmol/L未満のCKD患者714人を、新しいクラスの糖尿病治療薬の一つであるエンパグリフロジン(商品名ジャディアンス)、またはプラセボを8週間投与する群にランダムに割り付けた。次いで、714人中586人(平均年齢63.8歳、男性67%)を、3カ月半にわたってBI 690517を1日当たり3mg、10mg、20mgのいずれかの用量で投与する群とプラセボを投与する群にランダムに割り付けた。

 Tuttle氏らの説明によると、アルドステロンの産生量を抑制する作用を持つBI 690517のような薬剤は、高カリウム血症のリスクを高める可能性があるが、エンパグリフロジンはその作用に対抗することができるという。「このことが、腎保護の強化におけるBI 690517の有効性を、このクラスの薬剤の使用の妨げとなっていた重大な副作用を抑えながら検証する機会をもたらしてくれた」と同氏は言う。

 その結果、BI 690517の10mgと20mgが投与された患者では臨床的に意義のあるUACRの低下(30%以上の低下)が認められた(10mg:−39%、20mg:−37%)。一方、BI 690517とエンパグリフロジンが投与された患者でも、同様に臨床的に意義のある尿中アルブミン濃度の低下が認められた。高カリウム血症の発生率は、プラセボ群と比べてBI 690517群で高かったが(プラセボ:6%、BI 690517 3mg:10%、10mg:15%、20mg:18%)、そのほとんどは軽度であった。

 Tuttle氏は、注意深さを保ちつつも、「透析を必要とする患者の75%が糖尿病または高血圧性腎臓病に罹患している。認知度やアクセス、治療可能な段階での検出といった部分がうまくいけば、同薬によって透析が時代遅れの治療法になる可能性がある。そのような未来は、手の届くところまで来ている」との展望を示している。

HPV自己検査キット郵送:子宮頸がん検診受診率への影響は?

 米国で女性3万1355例(平均年齢45.9歳)を対象に、郵送でのヒトパピローマウイル(HPV)自己採取キット提供による子宮頸がん検診受診率の改善効果を無作為化試験で検討。郵送方法はキットを直送するダイレクトメール方式または要請に基づき送付するオプトイン方式とし、通常ケア(患者への検診予定通知+臨床医への電子医療記録上の通知)+教育(検診に関する教育資料の提供)も行った。主要評価項目は6カ月以内の検診完了とした。

 intention-to-treat解析の結果、検診遵守者の6カ月以内の検診完了率は、教育のみ群(47.6%)に比べダイレクトメール群(61.7%)とオプトイン群(51.1%)で高かった。検診受診遅延者の検診完了率は、教育のみ群(18.8%)に比べダイレクトメール群(35.7%)で高く、検診受診歴不明者では教育のみ群(15.9%)に比べオプトイン群(18.1%)で高かった。

 

 

 本論文は、ヒトパピローマウイルス(HPV)自己検査キットを用いた子宮頸がんスクリーニングの有効性を調査したランダム化比較試験であり、HPVスクリーニングへの適切なタイミングでのアクセスを向上させる戦略の重要性を示している。

 実際の医療システムにおける、より効果的な仕組みの実装に関する知見を提供しているものとして有益だと考えた。

 子宮頸がんの予防と早期発見には定期検診が重要であることは明らかであるが、推奨通りのタイミングで受診する女性ばかりではない。米国では、子宮頸がんと診断された女性の半数以上がガイドライン推奨の検診期限を過ぎているとされる。また、新型コロナウイルス感染症COVID-19パンデミックの影響によって定期検診受診率が低下したという報告もある。

 そのような中で、適切なタイミングでの子宮頸がん検診受診率をどのようにして上げるのかは、公衆衛生上の大きな課題である。単に検診の案内や啓発資料を郵送しても効果の低い層がいることは事実であり、本論文では、そのような観点で以下の結果を示しており、社会実装のために有益な情報だと考えられるだろう。

 なお、HPV自己検査は、医師による採取と同等の感度と特異度を有していることが先行研究で明らかとなっている。

  • 推奨期限を過ぎた女性においても、推奨期限内の女性においても、HPV自己検査キットを同封することで検診受診率が向上した
  • 特に、推奨期限を過ぎた女性に対しては、選択的申込制ではなく直接的な郵送がより効果的だった

 日本と米国では子宮頸がん検診の推奨や仕組みに違いがあり、特に日本ではHPV自己検査が広く推奨されていない。このため、本研究結果をそのまま日本に応用することには注意が必要だが、日本でも子宮頸がん検診の受診率の低さは長年問題視されており、本研究で得られたような知見を活かした施策を積極的に検討することは重要だろう。

 既得権益が新規施策の検討や導入を妨げることがないよう願いたい。

 

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov