デルマニアのブログ

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リツキシマブ投与で中和抗体陽性率6割低下 リウマチ性疾患に対するコロナワクチンの免疫原性

 一部の免疫抑制薬が新型コロナウイルスSARS-CoV-2)ワクチンの免疫原性を減弱させることが報告されている。イスラエル・Tel Aviv Sourasky Medical CenterのVictoria Furer氏らは、一般集団と比較した自己免疫性炎症性リウマチ性疾患(AIIRD)患者におけるSARS-CoV-2ワクチン接種後の免疫原性を調査。その結果、大半のAIIRD患者で免疫原性を確認できたものの、免疫抑制薬を投与している患者では免疫原性が損なわれる傾向があり、抗CD20抗体リツキシマブを投与している患者では中和抗体陽性率が6割近くも低下したと欧州リウマチ学会(EULAR 2021、6月2~5日、ウェブ開催)で発表した。

AIIRD患者686例と対照121例を比較

 ファイザーおよびモデルナのメッセンジャーRNA(mRNA)ワクチンの臨床試験では、自己免疫疾患の既往または免疫抑制薬の投与は除外項目であったため、AIIRD患者に対するmRNAワクチンの有効性および安全性に関するデータは十分でなかった。

 Furer氏らは、イスラエルの人口の約57%がファイザー製ワクチンの接種を受けた2020年12月~21年3月における3つの大規模医療施設のデータを収集。2回目のワクチン接種から2~6週後におけるAIIRD患者の免疫原性や免疫抑制薬の影響、安全性などを一般集団と比較する前向き観察研究を実施した。

 対象は18歳以上とし、AIIRD群(686例)には関節リウマチ(RA、38.3%)、乾癬性関節炎(PsA、24.1%)、体軸性脊椎関節炎(AxSpA、9.9%)、全身性エリテマトーデス(SLE、14.7%)、特発性炎症性筋疾患(IIM、2.8%)、大型血管炎(LVV、3.1%)、抗好中球細胞質抗体(ANCA)関連血管炎(AAV、3.8%)、その他の血管炎(3.4%)を、対照群(121例)にはAIIRDの既往および免疫抑制薬の投与がない者を組み入れた。妊婦または、ワクチンによるアレルギー歴およびCOVID-19発症歴を有する者は除外した。

 免疫原性については、DiaSorin社のLIAISON SARS-CoV-2 S1/S2 IgG assayを用いて、15BAU/mL超を中和抗体陽性と判定した。

65歳超、RA、AAV、IIMが中和抗体陽性率低下の因子

 AIIRD群および対照群で平均年齢はそれぞれ59歳(範囲19~88歳)、49.5歳(同18~90歳)、女性はそれぞれ69.3%、65.6%だった。

 中和抗体陽性率は対照群で100%だったのに対し、AIIRD群では86.0%だった。平均中和抗体価はそれぞれ218.6±82.06BAU/mL、132.9±91.7BAU/mLとAIIRD群で低かった。また中和抗体陽性率はRAおよびその他の血管炎患者でやや低く、AAVおよびIIM患者では大幅に低かった(1)。

1. 中和抗体陽性率と平均中和抗体価

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 AIIRD群の中で中和抗体陽性率が高く、症例数が比較的多いPsA患者とそれ以外の患者を比較し、ロジスティック回帰モデルを用いて中和抗体陽性率の調整済みオッズ比(aOR)を算出したところ、①65歳超(aOR 0.429、95%CI 0.246~0.747、P=0.0027)②RA(同0.305、0.113~0.821、P=0.0187)③AAV(同0.043、0.011~0.165、P<0.0001)④IIM(同0.063、0.015~0.268、P=0.0002)―が中和抗体陽性率低下の因子として同定された。

リツキシマブ投与~ワクチン接種の期間も免疫原性への影響大

 AIIRD群の95.2%に免疫抑制薬が投与されており、主な内訳はメトトレキサート(MTX)25.66%、腫瘍壊死因子(TNF)阻害薬25.07%、グルココルチコイド18.95%、抗CD20抗体(リツキシマブ)12.68%、ヤヌスキナーゼ(JAK)阻害薬7.14%、抗インターロイキン(IL)-17抗体7.00%などであった。

 またAIIRD群では免疫抑制薬の投与により、中和抗体陽性率が低下する傾向が見られた(2)。Furer氏は「とりわけリツキシマブ投与により、免疫原性が大きく損なわれていた。リツキシマブ単剤療法を施行した患者では中和抗体陽性率が最も低い39.29%だった」と述べた。

2. 投与された免疫抑制薬別に見た中和抗体陽性率

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 さらに、リツキシマブ投与からワクチン接種までの期間が短いほど免疫原性は大きく減弱し、インターバルが90日では中和抗体陽性率は1.15%、180日で18.39%、365日で52.18%だった()。

. リツキシマブ投与からワクチン接種までの期間別に見た中和抗体陽性率

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 ワクチン接種後にAIIRD群の1例がCOVID-19を発症し死亡、対照群の1例が軽度のCOVID-19を発症、その後回復した。

 軽度の有害事象の発現頻度は両群で同等だった。対照群で重篤な有害事象は認められなかったのに対し、AIIRD群で注目すべき有害事象として帯状疱疹6例、ぶどう膜炎2例、口唇ヘルペス1例、心膜炎1例を認めた。また、2回目のワクチン接種後にAIIRD群で3例が死亡した。

 ワクチン接種後におけるAIIRDの疾患活動性はおおむね安定的だった。

リツキシマブの投与延期を考慮すべき

 以上から、Furer氏は「AIIRD患者においてもワクチン接種後の中和抗体陽性率は86%と高かったものの、中和抗体価は低下していた。MTXや生物学的製剤、JAK阻害薬を含めほとんどの抗リウマチ薬は、ファイザー社のmRNAワクチン接種に際して継続使用が可能と考えられるが、リツキシマブにおいてはワクチンによる免疫原性を維持するために、可能であれば治療の延期を考慮すべきである」と結論。また、「ミコフェノール酸モフェチルおよびアバタセプト(特にMTXと併用する場合)においても、治療を継続する場合には個別に検討する必要がある」と付言した。