デルマニアのブログ

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開発段階のヘルペス治療薬、動物実験で有望な結果 再発リスクが抑えられる可能性も示される

 開発段階にある薬剤が、口唇ヘルペス性器ヘルペスなどを引き起こす単純ヘルペスウイルス(HSV)の活動性感染だけでなく、再発リスクも抑える可能性のあることが、動物を用いた研究で示された。研究の詳細は、同薬を開発しているInnovative Molecules GmbH(ドイツ)のCEOであるGerald Kleymann氏らにより、「Science Translational Medicine」6月16日号に発表された。

 HSVには1型(HSV-1)と2型(HSV-2)があり、感染者数は極めて多い。Kleymann氏によると、男女を問わず2人中1人以上がHSV-1に、ほぼ4人に1人がHSV-2に感染していると推定されている。HSV感染症の主な症状は、唇や目、皮膚、性器などに現れる痛みを伴う水ぶくれである。

 Kleymann氏は、「口唇ヘルペスによる唇の水ぶくれには社会的スティグマがあり、性器ヘルペスは性生活に支障をきたす」と指摘。また、「母親から新生児に感染すると、新生児の命に関わる可能性がある。眼への感染は視力障害の原因となり得るほか、免疫力の低下した臓器移植患者では、感染により死亡リスクが高まる。さらにまれなケースでは、ヘルペス脳炎を発症することもある」と説明する。

 最も厄介なのは、これらのウイルスに感染すると、生涯にわたって体内の神経細胞の中でウイルスが生き続け、何度も再発を繰り返す可能性があることだ。Kleymann氏らによると、体内に潜むHSVは、患者の約30%に再発を引き起こすと推定されている。

 HSV感染症に対しては、ゾビラックス(一般名アシクロビル)やバルトレックス(一般名バラシクロビル)、ファムビル(一般名ファムシクロビル)などの治療薬があるが、これらは症状を緩和するだけだ。これに対して、今回報告された薬剤のIM-250は、疾患を完全に治すことを目指している。では、どのようにして治癒に至るのか。IM-250はヘリカーゼ・プライマーゼ複合体阻害薬である。ヘリカーゼ・プライマーゼ複合体はHSV由来の酵素で、ウイルスのDNA複製に必須である。本薬剤は、この酵素の活性を阻害することにより、HSVの増殖を阻止することを目的としている。

 今回、Kleymann氏らは、HSV-1感染マウスおよびHSV-2感染モルモットを用いて、この薬剤の効果を検証した。その結果、致死性の感染症を起こしたマウスでは、IM-250投与により、用量依存的に体内のウイルス量が減少しただけでなく、生存期間の延長も確認された。一方、性器ヘルペスを想定してHSV-2に感染させたモルモットを使った実験では、急性期での治療効果と、潜伏感染に対する治療効果の双方が検証された。その結果、IM-250は症状の重症化を有意に抑制しただけでなく、再発リスクも低下させることが示された。また、この再発リスクの抑制効果は、治療を終えた後も持続していた。さらに、IM-250は現行の標準的な治療薬に抵抗性を示すHSV感染例にも有効である可能性が示された。

 今回のKleymann氏らの報告を受け、この研究には関与していない米ジョンズ・ホプキンス健康安全保障センターのAmesh Adalja氏は、「有望な結果だ」と評価する。同氏は、「現行の治療薬は感染症の重症度を低下させることはできるが、神経細胞に潜伏感染したウイルスを排除することはできない。その結果、こうしたウイルスが再発を引き起こすことになる」と指摘。「残存するヘルペスウイルスを減らすことのできる薬剤が開発されれば、ヘルペスの治療は大きく前進するだろう」と述べている。

 ただし、Adalja氏は、今回の結果が動物実験に基づくものであることに言及し、「ヒトでも同じ結果が再現されるかどうかについては、今後検証する必要がある」としている。