デルマニアのブログ

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とある皮膚科医のブログです。

COVID-19と帯状疱疹の関係

帯状疱疹は、加齢に伴う免疫機能の低下などにより、水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)が再活性化することで発症する疾患です1)。なお、50歳以上のVZV抗体保有率は100%であったとの報告もあり2)、50歳以上の人は帯状疱疹の発症リスクがあるといわれています。

こうした背景の中、2022年、GSKが実施した帯状疱疹に関する大規模観察研究の結果が論文にて公表され、50歳以上の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診断例では、50歳以上のCOVID-19非発症例に対し、帯状疱疹発症相対リスクに有意差が認められたことが報告されました[発症相対リスク(95%CI):1.15(1.07-1.24)、P<.001]3)

COVID-19と帯状疱疹リスクの関連

本研究は、COVID-19診断後に帯状疱疹を発症するリスクを評価することを目的に実施した、後ろ向きコホート研究です。
米国における2つの大規模データベースのデータに基づき、50歳以上のCOVID-19診断例および非発症例を比較しました。

評価方法および解析計画はご覧のとおりです。

COVID-19発症がなかった50歳以上の1,577,346例に対する、COVID-19と診断された50歳以上の394,677例の帯状疱疹発症相対リスクについて解析した結果です。
COVID-19と診断された患者では、COVID-19発症がなかった成人に対し、帯状疱疹の発症相対リスクは1.15(95%CI:1.07-1.24、P<.001)と有意差が認められました。
このうちCOVID-19で入院した患者では、帯状疱疹の発症相対リスクは1.21(95%CI:1.03-1.41、P=.02)と有意差が認められました。

また、COVID-19診断後の期間別の解析では、診断後6ヵ月まで帯状疱疹の発症相対リスクが高い傾向が見られました[指標日後1-30日、31-90日、91-183日の発症相対リスク(95%CI):1.20(1.04-1.38)、P=.01、1.11(0.98-1.26)、P=.11、1.28(1.12-1.48)、P<.001]。
そのほか、50-64歳、および、65歳以上の年齢層別に解析した結果はご覧のとおりです。

なお本研究では、研究デザインの頑健性を評価するため、帯状疱疹と関連のない骨折を対照曝露として感度分析を行っており、骨折の有無では帯状疱疹発症相対リスクに統計的な有意差がないことが示されました[発症相対リスク(95%CI):1.10(0.98-1.23)、P=.11]。
また、本試験で用いたCOVID-19の定義の影響を評価するために、COVID-19をより厳格に定義し、COVID-19と診断のある1件の入院請求、またはCOVID-19と診断のある30日以内間隔での少なくとも2件の外来請求をCOVID-19診断の定義とした感度分析も行っており、より厳格な定義によりCOVID-19と診断された患者(177,503例)では、帯状疱疹発症相対リスクは1.24(95%CI:1.12-1.37、P<.001)と有意差が認められました。

なお、本研究の制限として、本データベースには、経済的に困窮した人々や人種/民族が高率で加入しているMedicaidやMedicare(Medicare Advantageを除く)の被保険者の情報が含まれていないため、本試験の結果は一般化できない可能性があること、COVID-19コホートにはアフリカ系アメリカ人帯状疱疹リスクが白人よりも低い)が多く含まれ得るため、COVID-19の影響が過小評価されている可能性があること、COVID-19の診断の感度や特異度を評価できなかったこと、などが挙げられます。

シングリックスの帯状疱疹予防効果/安全性

帯状疱疹ワクチンのひとつに、シングリックスがあります。ここからは、シングリックスの帯状疱疹予防効果と安全性について、臨床試験をもとにご紹介します。
50歳以上の男女約15,000例を対象としたZOSTER-006試験、70歳以上の男女約14,000例を対象としたZOSTER-022試験が行われました。

いずれの試験もプラセボ対照無作為化試験で、シングリックス接種後の帯状疱疹予防効果の検証が目的であり、試験期間は4年間でした。

ZOSTER-006試験の50歳以上および各年齢層におけるシングリックスの帯状疱疹予防効果をご紹介します。
シングリックス群、プラセボ群それぞれ約7,000例のうち帯状疱疹を発症した症例は、プラセボ群では210例であったのに対し、シングリックス群では6例であり、97.2%の有効性が示され、シングリックスの帯状疱疹に対する予防効果が検証されました。
また、年齢別のサブグループ解析では、50歳代で96.6%、60歳代で97.4%、70歳以上で97.9%の有効性が認められました。

続いて、ZOSTER-022試験の70歳以上および各年齢層におけるシングリックスの帯状疱疹予防効果をご紹介します。
シングリックス群、プラセボ群それぞれ約6,500例のうち帯状疱疹を発症した症例は、プラセボ群では223例であったのに対し、シングリックス群では23例であり、89.8%の有効性が示され、シングリックスの帯状疱疹に対する予防効果が検証されました。
また、年齢別のサブグループ解析では、70歳代で90.0%、80歳以上で89.1%と年齢に依らない予防効果が認められました。

ZOSTER-006とZOSTER-022の併合解析では、接種後7日間の局所性特定有害事象は、シングリックス群で80.8%、プラセボ群で11.7%、全身性特定有害事象はそれぞれ64.8%、29.1%に認められました。主な局所性特定有害事象として、注射部位疼痛がシングリックス群で78.0%、プラセボ群で10.9%、主な全身性特定有害事象として、筋肉痛がそれぞれ44.7%、11.7%、疲労がそれぞれ44.5%、16.5%に認められました。
全被験者における接種後30日間の特定外有害事象はシングリックス群で50.5%、プラセボ群で32.0%に認められました。

重篤な有害事象、死亡に至る重篤な有害事象は、ご覧のとおりでした。

シングリックスの長期追跡期間における帯状疱疹予防効果/安全性

さらに、シングリックスはこれら2つの臨床試験の延長試験が実施されており、帯状疱疹予防効果が7.1年(平均値)まで観察されています。
本試験は、2つの臨床試験に参加した被験者のうち50歳以上の7,413例が組み入れられました。

なお、対照は、ZOSTER-006および022におけるプラセボ群から推定したヒストリカルコントロールを置いています。

主要目的である長期追跡期間(ワクチン接種後5.1年(平均値)~7.1年(平均値))における帯状疱疹予防効果は、84.0%(推定値)でした。
副次目的である全観察期間における帯状疱疹予防効果は90.9%(推定値)でした。
長期追跡期間において、ワクチン接種との因果関係が認められる死亡例やその他の重大な有害事象は認められませんでした。帯状疱疹の合併症に関連する重篤な有害事象として、帯状疱疹後神経痛1例、播種性帯状疱疹1例が報告されました。

また、全観察期間における年次予防効果は、試験8年目で84.1%(推定値)でした。

今回ご紹介したように、大規模観察研究において、50歳以上のCOVID-19診断例では、50歳以上のCOVID-19非発症例に対し、帯状疱疹発症相対リスクは1.15(95%CI:1.07-1.24、P<.001)と有意差が認められました3)

 

1) Kimberlin DW. & Whitley RJ.: N Engl J Med. 356(13), 1338-1343, 2007

2) Ueno-Yamamoto K. et al.: Pediatr Infect Dis J. 29(7), 667-669, 2010

3) Bhavsar A et al. Open Forum Infectious Diseases, Volume 9, Issue 5, May 2022, ofac118