デルマニアのブログ

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とある皮膚科医のブログです。

アトピーの発症年齢に遺伝が関与

 これまで、アトピー性皮膚炎(AD)の発症にはフィグリン(FLG)遺伝子変異などの遺伝的要因が関与することが報告されているが、遺伝的要因と発症年齢との関係についてはほとんど研究されていない。理化学研究所生命医科学研究センターファーマコゲノミクス研究チームの曳野圭子氏らは、バイオバンク・ジャパン(BBJ)に登録された日本人AD患者のデータを用いて発症年齢に遺伝的要因が及ぼす影響を調査。その結果、AD発症年齢の遺伝基盤を解明したとJ Invest Dermatol2022; 142: 3337-3341)に発表した(関連記事「自己免疫疾患とアレルギーに共通の特徴」)。

日本人AD患者を対象に大規模ゲノムワイド関連解析

 さまざまな疾患について遺伝的要因の発症年齢への関与が研究されているが、アレルギー疾患ではほとんど例がない。特にADは、主に欧州の集団を対象とした限られた研究のみで、アジア人集団において全ゲノムレベルで発症年齢の遺伝基盤を解明することが求められていた。

 研究グループはこれまで、BBJに登録された日本人のAD患者群2,639例と対照群11万5,648例を対象とした大規模ゲノムワイド関連解析(GWAS)を行い、17カ所の疾患感受性領域を同定。日本人においてAD発症に関与する一塩基多型(SNP)としてNLRP10領域とCCDC80領域を報告している(J Allergy Clin Immunol 2021; 148: 1293-1306)。今回、さらに発症年齢に関する情報を有するAD患者1,344例を対象に遺伝的要因と発症年齢との関連を調べた。

NLRP10領域が早期発症に関与

 まずGWASで先述の17カ所の疾患感受性領域と発症年齢の関連を調べたところ、NLRP10領域との有意な関連が認められ(P<5.8×10-4)、リスクアレル保有者では発症年齢が約3年早まることが示された。NLRP10領域以外の16カ所の疾患感受性領域におけるリスクアレル数、遺伝的リスクスコア(GRS)と発症年齢との相関を調べたところ、いずれも発症年齢と有意な逆相関が認められた。

 また、17カ所いずれかの疾患感受性領域にリスクアレルを保有する者では、平均すると約6カ月発症が早いことが分かった。これらのことから、疾患感受性遺伝子は年齢特異性を考慮して解釈すべきであり、遺伝的影響が強いほど早期発症につながることが示された。

発症年齢による症状の違いは遺伝的要因の可能性

 次に、AD発症年齢別に遺伝的リスクの効果量を検討したところ、発症年齢による相違が見られた()。このことから、疾患感受性領域ごとに発症年齢に及ぼす影響の強さが異なり、ADのフェノタイプの違いは遺伝的要因によるものである可能性が示唆された。

図. 発症年齢別に見たNLRP10領域の効果量

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理化学研究所プレスリリースより)

 以上を踏まえ、曳野氏は「日本人では、NLRP10領域のリスクアレル保有者でAD発症年齢が約3年早まること、ADは年齢依存的な多遺伝子構造を示し、遺伝的リスクが高いほど発症が早まることを明らかにした。さらに、疾患感受性領域ごとに発症年齢に及ぼす遺伝的影響の強さは異なることも分かった」と結論。その上で「発症年齢によるADの病態の違いのさらなる解明につながり、病態に応じた新規治療法や予防法の開発、高リスク患者に対する遺伝的発症リスクの大きさで層別化した早期介入の実現が期待できる」と展望している。