紫外線からの防御
オランダがん研究所(アムステルダム)の皮膚科医で疫学者のElsemieke Plasmeijerは、自然の太陽光や日焼けマシンを通じて紫外線に過剰に曝露されることほど、長期的に見て皮膚に悪影響を及ぼすことはないと言う。紫外線は、最も致死率の高い皮膚がんであるメラノーマ(悪性黒色腫)の主要な原因となっている。世界保健機関(WHO)の国際がん研究機関(IARC)によると、2022年には約6万人がメラノーマにより死亡している。
地表に到達する紫外線には主にUVAとUVBの2種類があり、皮膚に及ぼす影響はそれぞれ異なる。UVAは真皮に酸化ストレスを引き起こし、組織の構造を保つタンパク質のコラーゲンや、皮膚に柔軟性を与えるタンパク質のエラスチンを分解することでダメージを与える。一方、UVBは表皮にしか到達しないが、日焼けや、皮膚がんにつながる可能性のあるDNA損傷を引き起こす。2019年の研究から、UVAとUVBはいずれも、皮膚バリア内で細胞同士の接着を助けるタンパク質を阻害することが判明している1。その結果、角層細胞間の結合が弱まり、皮膚バリアのレジリエンス(復元力)が低下することになる。
何時間もビーチで日光浴をしなくても、過剰な紫外線にさらされることはある。ノースウェスタン大学の皮膚科医で皮膚がんを専門とするPedram Geramiらは、2025年12月に、屋内日焼けマシンを使う人がメラノーマを発症するリスクは、使わない人の3倍も高いと報告した2。また、屋内日焼けマシンを使う人はメラノーマが複数できる傾向があり、太腿など、通常は日光によるダメージが少ない部位にも見られた。
屋内日焼けサロン業界は、日焼けマシンは、DNAを損傷するUVBよりもUVAの方を多く発生させるため、自然光よりも安全だと主張することが多い。しかしGeramiによれば、この主張は間違っていることが多いという。「日焼けマシンが発生させるUVAの量は、屋外の自然光のUVAの約10~15倍にもなるのです」。WHOは日焼けマシンを、アスベストやタバコの煙と同じ最高レベルの「グループ1(ヒトに対する発がん性がある)」に分類している。
長期的な追跡調査を行った複数の臨床試験により、日焼け止めを使用することで、メラノーマをはじめとする皮膚がんの発症リスクが大幅に低下することが示されている3,4。WHOは、UVAとUVBの両方を遮断する、SPF(UVBから皮膚を守る効果の指標)が30以上の広域スペクトルタイプの日焼け止めを使用するよう推奨している。しかしPlasmeijerは、長袖のシャツやつばの広い帽子などの日差しを遮る衣類を着用し、午前10時から午後2時にかけての日差しが最も強い時間帯には屋外に出ないようにすることが、最善の日焼け対策になると言う。
彼女によると、こうした追加の対策を講じることが重要なのは、日焼け止めの品質には大きなばらつきがあるからだという。例えば2025年9月には、オーストラリアの医薬品規制当局である薬品・医薬品行政局(TGA)が日焼け止めの検査を行ったところ、一部の製品の基剤の処方に問題があって実際のSPF値が表示の数値を大幅に下回っていたことが判明し、人気の日焼け止めの一部が店頭から回収されるという騒ぎが起きている。
日焼け止めを支持する膨大な証拠があるにもかかわらず、ソーシャルメディアではインフルエンサーが、日焼け止めが皮膚がんやビタミンD欠乏症を引き起こすといった根拠のない主張など、多くの誤情報を広めている。Plasmeijerは、このような誤情報の標的は、皮膚科医を受診する習慣のない若年層であることが多いと指摘する。「これらの情報が間違っていることを彼らに分からせるのは非常に難しいのです」と彼女は言う。
スキンケアはシンプルが良い
市場には、若さを取り戻し、ダメージを修復する成分を含んでいるとうたうスキンケア製品があふれているが、その多くはうたい文句の裏付けとなる科学的根拠がほとんどないとLioは言う。例えば複数の研究で、バランスの取れたシンプルな保湿剤を使うことが、皮膚バリアの各層の維持と修復に役立つことが示されている5。Lioは、最も効果的な保湿剤には、エモリエント(柔軟剤)、ヒューメクタント(湿潤剤)、オクルーシブ(閉塞剤)という3つの主要な成分が含まれていると説明する。油脂類などのエモリエントは、皮膚を柔らかくし、皮膚細胞と脂質の間の隙間を埋めることで、水分の損失を防ぐ。ヒアルロン酸などのヒューメクタントは、外気や真皮の水分を肌の表面に引き寄せる。ワセリンなどのオクルーシブは、皮膚の上に膜を形成して水分の蒸発を防ぐ。
Kattaによると、他にも、研究による裏付けがあり、特定の皮膚トラブルの解決に役立つ成分がいくつかあるという。1つはレチノイドだ。レチノイドはビタミンA誘導体の一種で、にきび、乾癬、老化の治療によく用いられている。これらの分子は、細胞の代謝回転とコラーゲンの生成を促進することで、しわやしみを軽減する。また、にきびを悪化させる複数の炎症経路を遮断したり、皮膚内の既存のコラーゲンの分解を遅らせたりする効果もある。「レチノイドは、救世主と言える分子の1つです」とKattaは言う。
また、ビタミンCなどの抗酸化物質は、皮膚の脂質やDNA、タンパク質を損傷させる、不安定で反応性の高い分子である遊離基(フリーラジカル)に対する防御力を高める。2017年に健康な成人を対象に行われた研究では、ビタミンCなどの抗酸化物質を前腕に塗布すると、大気汚染の主要成分であるオゾンにさらされた際に、コラーゲンやエラスチンを分解する酵素の活性化を防げることが示された6。
しかし、ノースカロライナ州立大学(米国カナポリス)の再生医療研究者で、皮膚の専門家であるGiuseppe Valacchiは、保湿剤や高機能成分をどれだけ使っても、不健康な生活習慣による影響を打ち消すことはできないとくぎを刺す。例えば喫煙は、皮膚の修復機構を阻害し、コラーゲンやエラスチンを分解し、さらに皮膚へ栄養素を運ぶ血流を減少させることで、皮膚に大きなダメージをもたらす。「皮膚の上から何を塗ろうとも、ダメージを軽減する効果はありません」とValacchiは言う。
Harris-Tryonによると、健康な皮膚を維持するための生活習慣において重要な要素の1つは、抗酸化物質、アミノ酸、脂質を豊富に含む、栄養価の高い食事を取ることだという(2025年1月号「食事で免疫系をコントロールできるか?」参照)。そして皮膚は、「その人が栄養不足であるかどうかを視覚的に確認できる最初の場所」だと彼女は言う。皮膚と腸が深く結び付いていることを示す証拠も増えている。いくつかの研究では、腸のマイクロバイオームの変化が皮膚の炎症シグナルを変化させることが判明しており、胃腸の健康と、乾癬などの皮膚疾患との間に関連がある可能性が示唆されている7,8。しかし、その正確な機構はまだ完全には解明されていないとHarris-Tryonは言う。
皮膚は体内の健康状態をのぞき見るための窓であるだけでなく、全身の健康にも寄与している。Manらはマウスを用いた研究で、しわだらけの老化した皮膚では、若い皮膚に比べてサイトカインと呼ばれる炎症性分子の発現量が多いことを発見している。これは、皮膚が加齢とともに徐々に進行する背景的な炎症、すなわち炎症老化(inflammageing)に関与している可能性を示している。2019年の小規模な研究9では、高齢者の皮膚にエモリエントを塗布することで、血流中のサイトカイン濃度が低下することが見いだされ、エモリエントの塗布が炎症に関連する加齢性疾患の予防に役立つ可能性が示唆されている。
完璧そうに見える肌を約束するスキンケア製品や手の込んだスキンケアルーティンは数え切れないほど存在するが、健康な皮膚を維持するには、往々にしてシンプルな手法が求められるとKattaは言う。「皮膚の機能について考えるなら、必ずしも美しく見える必要はありません」と彼女は言う。「皮膚の本来の役割は、外界の脅威から私たちを守ることにあるのです」。
参考文献
1. Lipsky, Z. W. & German, G. K. J. Mech. Behav. Bio. Mat. 100, 103391 (2019).
2. Gerami, P. et al. Sci. Adv. 11, eady4878 (2025).
3. Green, A. et al. Lancet 354, 723–729 (1999).
4. Watts, C. G. et al. JAMA Dermatol. 154, 1001–1009 (2018).
5. Rajkumar, J., Chandan, N., Lio, P. & Shi, V. Skin Pharmacol. Physiol. 36, 174–185 (2023).
6. Valacchi, G. et al. J. Invest. Derm. 137, 1373–1375 (2017).
7. Zakostelska, Z. et al. PLoS ONE 11, e0159539 (2016).
8. Mahmud, M. R. et al. Gut Microbes 14, 2096995 (2022).
9. Ye, L. et al. J. Eur. Acad. Dermatol. Venereol. 33, 2197–2201 (2019).
Nature ダイジェスト Vol. 23 No. 7
DOI: 10.1038/ndigest.2026.260725
原文
Forget SkinTok: the real science of skincare and why it matters for your health
Nature (2026-03-12) | DOI: 10.1038/d41586-026-00700-y
Gemma Conroy