デルマニアのブログ

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とある皮膚科医のブログです。

AIガイドCRISPRスクリーニングを用いた乾癬治療標的の探索

皮膚科領域におけるAIベース創薬アプローチ

 乾癬の治療は、IL-23/IL-17軸を標的とする生物学的製剤の登場により劇的に変わりました。生物学的製剤が治療の主流になるにつれ、より早期から導入することで乾癬性関節炎をはじめとする合併症を抑制できる可能性も重要視されるようになっています。

 しかし、全身療法を行うことに対する患者の精神的な抵抗や経済的負担から、全ての患者が生物学的製剤で治療されるわけではありません。そのため、外用療法も大切な治療選択肢です。現在、ステロイド外用薬とビタミンD3外用薬が中心ですが、近年タピナロフクリームが登場したことで選択肢は増えてきました。しかし、IL-17軸を直接狙うような外用薬はまだありません。

 本論文は、表皮角化細胞において、IL-17受容体A(IL17RA)の細胞表面発現を制御する遺伝子をゲノムワイドCRISPRノックアウトスクリーニングで網羅的に探索し、さらに大規模言語モデル(LLM)を用いた新規性評価によって候補を絞り込み、既存薬の外用によりマウス乾癬様皮膚炎を抑制するところまでを示した研究です。

 「AIで標的を選ぶ」という創薬アプローチそのものが皮膚科領域で提示された点も含めて、紹介したいと思います。

論文概要

ノックアウトスクリーニングとLLMによる新規性評価

 本研究ではまず、ヒト表皮角化細胞(HEKa)を用いたゲノムワイドCRISPRノックアウトスクリーニングが行われた。Brunello CRISPRノックアウトライブラリを導入することで、約19000遺伝子を標的とするsgRNAによって遺伝子機能を網羅的に破壊し、IL17RA表面発現が高い細胞と低い細胞を、それぞれ上位・下位約5%でFACSにより分取した。その結果、低発現群で472遺伝子、高発現群で724遺伝子がヒットとして同定された。

 次に、「これまでにIL17RAとの関連が知られていない」候補を優先的に拾い上げるため、VirtualCRISPRというLLMベースの手法を用いて、その新規性を評価した。最終的に生物学的妥当性や創薬可能性などを満たす候補として、オキシトシン受容体(OXTR)とアラキドン酸5-リポキシゲナーゼ(ALOX5)が選定された。ALOX5に対してはFDA承認薬であるzileuton(喘息治療薬)が、OXTRに対しては選択的拮抗薬cligosibanが存在するが、これまでに角化細胞のIL17RA調節因子としては報告されていなかった。

 続いて標的検証が行われた。HEKaでOXTR、ALOX5を個別にノックアウトすると、いずれもIL17RAの細胞表面発現が有意に低下した。ALOX5およびOXTRノックアウトでは、CXCL1、IL-6、IL-1βといった炎症性サイトカインの分泌も減少した。プロテオーム解析では、ALOX5ノックアウトによりIVLやペリプラキンなど分化・バリア関連蛋白が増加し、炎症性脂質代謝関連のLPCAT2・CYP2S1が減少した。OXTRノックアウトでは乾癬皮膚のアラーミンとして知られるS100A8・S100A9が最も強く減少した。

 in vivoでは、zileutonとcligosibanを外用製剤化し、イミキモド誘導乾癬様皮膚炎モデルマウスに投与して、その作用を検証した。両薬剤とも修正版PASIスコアを有意に低下させ、5日目以降に改善が顕著となり、7日目には皮膚所見が著明に改善した。その改善の大きさは、このマウスモデル内では全身投与した抗IL17RA抗体に匹敵した。しかし、両薬剤の併用は単剤と同程度の効果であり、明確な上乗せ効果は認められなかった。

候補遺伝子の作用機序

 作用機序についても検討されている。ALOX5については、その下流産物であるロイコトリエンB4(LTB4)が用量依存的に角化細胞のIL17RA表面発現を増加させ、逆にzileutonはこれを低下させた。この低下はdynamin阻害薬dynasoreで完全に打ち消されたことから、ALOX5経路はdynamin依存性のエンドサイトーシスを抑制することでIL17RAの細胞表面局在を維持している可能性が示された。

 OXTRについては、オキシトシン刺激でIL17RAが増加し、cligosibanで用量・時間依存性に減少したが、これらの効果はカルシウムキレートやカルシニューリン阻害(タクロリムス)で消失し、ionomycinによるカルシウムシグナル活性化でcligosibanの効果は打ち消され、NFAT阻害でオキシトシンの効果が消失した。すなわち、OXTRはカルモジュリン-カルシニューリン-NFAT軸を介してIL17RA発現を制御していると考えられた。

 最後に、末梢血単核球(PBMC)に対するscRNAseqにおいて、患者では単球・樹状細胞・CD8陽性T細胞が増加し、NK細胞が相対的に減少しており、ALOX5の発現はS100A8/A9/A12とともに患者で上昇していた。一方でOXTRは免疫細胞では有意な上昇を示さず、上皮性の制御機構であることが示唆された。患者由来PBMCの培養上清ではLTB4濃度が有意に高く、免疫細胞のALOX5経路活性が角化細胞のIL17RA発現に影響する可能性が示唆された。

私の視点

本論文の面白さは方法論にあり

 本論文の面白さは、生物学的な発見そのものよりも、「どうやって標的を見つけたか」という方法論にあると感じました。ゲノムワイドCRISPRスクリーニングもすごい技術革新ですが、そこで数百の候補が出てきたときに、そこから何を選ぶかは結局のところ研究者の勘と既存知識に依存してきました。しかし、既存知識に基づいて選ぶと、どうしても既知のパスウェイの周辺に着地してしまいます。

 本研究はここで発想を逆転させ、LLMが「予測できない」=「文献に乏しい」候補こそが新規性の高い標的だとして拾い上げました。AIを、答えを出す道具としてではなく、既知と未知を切り分ける物差しとして使っている点が巧みです。この枠組み自体は、乾癬に限らず、あらゆる疾患の標的探索に応用できるでしょう。AIの発展により創薬は大きく変わっていくと考えられます。

 一方で、著者ら自身も述べているとおり、この予測は学習データの範囲に依存します。「文献にない」ことは「新規」であると同時に「これまで誰かが調べて否定的だった」可能性も含みますし、ネガティブデータは論文化されにくいという出版バイアスの可能性も当然あります。だからこそ本論文が、AIによる優先順位づけの後に、ノックアウト・プロテオーム・動物実験と丁寧に検証を重ねている点は評価されるべきだと思います。

 乾癬の病態に関して言えば、ALOX5とOXTRという全く由来の異なる2つの経路が、いずれもIL17RAの細胞表面発現量という一点に収束していることが興味深いところです。しかもその機序は、ALOX5がロイコトリエンを介した受容体の内在化制御、OXTRがカルシウム-カルシニューリン-NFAT軸を介した発現制御と全く異なります。抗体でリガンドや受容体をブロックするという機序以外に、受容体の発現量そのものを下げるという治療戦略を示した点は興味深いです。

日常臨床への生かし方

IL-17軸を上流から抑える外用薬の開発につながるか

 現時点では、本論文の内容を直接臨床応用できるわけではありません。zileuton外用薬もcligosiban外用薬も存在せず、あくまでモデルマウスを用いた研究です。

 しかし、IL-17軸を上流から抑える外用薬という選択肢が将来的に生まれる可能性が示されたことは大きいと思います。生物学的製剤でも難治な皮疹は存在します。外用薬であれば皮疹に直接アプローチできます。zileutonはFDA承認済みの薬剤であり、安全性プロファイルが確立されているため、開発への道筋は比較的短い可能性があります。

 また興味深いのは、カルシニューリン阻害薬に関する知見です。本論文では、タクロリムスがオキシトシン-OXTR経路を介したIL17RA発現上昇を阻害することが示されています。タクロリムス軟膏はアトピー性皮膚炎に対して適応のある外用剤ですが、乾癬の皮疹に対しても有効なことはよく知られています。その作用機序として、T細胞抑制だけでなく、角化細胞のIL17RA発現低下という側面もあるかもしれません。

 最後に、ゲノムワイドスクリーニングとAIによる優先順位づけ、既存薬のリポジショニングという流れは、患者数の少ない皮膚疾患ほど有用性が高いと思われます。有効な治療薬が存在しない多くの皮膚疾患の患者さんにとっての福音になることを期待します。

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/42409798/

乾癬のエピジェネティック加齢進行をチルドラキズマブが抑制か

■この記事のポイント

  • 乾癬患者は死亡率を予測するエピジェネティック加齢クロックが促進されており、老化速度が増加していた。
  • IL-23阻害薬であるチルドラキズマブの投与により、28週および52週時点でエピジェネティック年齢の指標(PCGrimAge)が有意に逆転した。
  • チルドラキズマブによる治療は、乾癬患者におけるエピジェネティック老化の進行を部分的に改善することが示された。

背景 IL-23を標的とする生物学的製剤は乾癬での皮膚の炎症を制御するが、エピジェネティックな加齢への影響はこれまで示されていない。

目的 中等症から重症の乾癬のエピジェネティック加齢の偏向に対するチルドラキズマブ治療の効果を評価すること。

方法 52週間のオープンラベル臨床試験では、成人の乾癬患者20名が28週目までチルドラキズマブ 100 mgの注射投与を受けた。乾癬のない年齢をマッチさせた対照群10名が登録された。全因死亡率、表現型年齢、暦年齢、老化速度、およびテロメア長を予測するエピジェネティック加齢クロックを算出するため、末梢血白血球DNAにおいてゲノムワイドDNAメチル化(DNAm)のプロファイリング(MethylationEPICv2.0、Illumina)が実施された。エピジェネティック年齢の偏向は、暦年齢に対する残差として算出された。

結果 乾癬患者は、死亡率を予測するクロックにおいてエピジェネティック年齢の偏向が増大していた:PCGrimAge(P=0.008)、CpGPTPCGrimAge3(P=0.019)、CpGPTGrimAge3(P=0.019)、GrimAge2(P=0.049)。チルドラキズマブの使用後、PCGrimAgeは0.3年(28週目、P=0.005)および0.5年(52週目、P=0.04)逆転した。乾癬患者では老化速度が増加していた:DunedinPACE(P=0.049)。

限界 パイロット研究(サンプルサイズが小さい)。

結論 乾癬患者は、死亡率を予測する時計(mortality-predictive clocks)で加速したエピジェネティック加齢を呈していた。チルドラキズマブによる治療(IL-23阻害)は、28週間でこれらのクロックの部分的な逆転を示した。

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

アトピー性皮膚炎リスク上昇に乳幼児期の呼吸器感染症が関連

アトピー発症リスクに3歳までの呼吸器感染症負担が関連

 

■この記事のポイント

  • 2つの独立した出生コホートを用いて、乳幼児期の感染症負担と小児期のアトピー性皮膚炎(AD)リスクとの関連を調査した。
  • 早期の感染症負担、特に呼吸器感染症の増加は、抗菌薬治療や遺伝的要因(FLG変異)とは独立してADリスクを上昇させた。
  • 感染エピソード数が増えるにつれて用量依存的にADリスクが高まることが示され、両者の長期的な関連性が明らかになった。

重要性 エクスポソームはアトピー性皮膚炎(AD)の発症に重要な役割を果たすと提唱されている。しかし、乳幼児期の感染症がADのリスクと関連しているかどうかは不明なままである。

目的 早期の感染症負担および感染症のサブタイプが小児期のADリスクと関連しているかどうかを調査すること。

研究デザイン、設定、対象者 2010年のデンマークにおけるコペンハーゲン小児喘息前向き研究(COPSAC2010)出生コホートの0歳から10歳の小児データを用いたコホート研究。感染症診断、AD診断、アトピー性皮膚炎スコア(SCORAD)インデックススコア、全身性抗菌薬の使用、およびフィラグリン遺伝子(FLG)の状態について追跡調査された。米国のビタミンD出生前喘息軽減試験(VDAART)コホートという第2の出生コホートにおいて再現性が試みられた。データは2026年1月から2月の間に解析された。

曝露 COPSAC2010では、3歳までの日誌に毎日記録された風邪、急性中耳炎、扁桃炎、肺炎、胃腸炎の感染エピソード、ならびに発熱エピソードおよび日数。VDAARTでは、3歳までの風邪、発熱、呼吸器感染症、および発熱エピソード。

主要アウトカムおよび評価項目 COPSAC2010では、一般化推定方程式(GEE)モデルによる縦断的リスク評価を伴う診断基準を用いた0-10歳のADリスク。解析はFLG変異および全身性抗菌薬治療で調整された。VDAARTでは、6歳までの保護者報告による医師のAD診断が使用された。

結果 COPSAC2010の小児663人のうち、感染エピソードおよび日数の最上位三分位(221人、男性112人[51%]、女性109人[49%])の小児は、最下位三分位(221人、男性109人[49%]、女性112人[51%])の小児と比較して、0-10歳の年間AD罹患リスクが高かった(GEEモデル):それぞれ調整オッズ比(AOR)1.61、95%信頼区間(CI)1.05-2.47、P=0.03、およびAOR 1.69、95%CI 1.11-2.58、P=0.01。各感染エピソードもまた、全身性抗菌薬治療およびFLG変異とは独立して、ADリスク上昇と関連していた。この関連は主に呼吸器感染症によるものであった。VDAART(707人)では、感染エピソードの最上位三分位(235人、男性125人[53%]、女性110人[47%])の小児は、最下位三分位(236人、男性119人[50%]、女性117人[50%])の小児と比較して、0-6歳でのADリスクが高く(OR 1.76、95%CI 1.16-2.70、P=0.01)、感染エピソードが1回増えるごとにリスクが上昇した(OR 1.03、95%CI 1.01-1.05、P=0.002)。

結論および意義 本研究により、2つの独立した出生コホートでは、早期の呼吸器感染症負担が用量依存的にAD診断と関連していることが見出された。これらの知見は、過去の研究の相反する結果のためにこれまで不明確であった早期の呼吸器感染症とADとの間の長期的な関係を示唆している。

 

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

緑地量でぜん息増・アトピー減の関連判明

環境研、研究成果は、「International Journal of Hygiene and Environmental Health」に掲載

国内で未検証だった緑地と子どものアレルギーの関連をエコチル調査で解析

 国立環境研究所は7月6日、4歳時点の居住地周辺の緑地量とアレルギー疾患の関連を解析した結果、周囲の緑地が多い環境ほどぜん息がみられやすい一方で、アトピー性皮膚炎はみられにくいという疾患によって異なる方向性の関連が認められたと発表した。この研究は、同研究所エコチル調査コアセンターの蒋宏偉主任研究員、ジンワイティ特別研究員、関山牧子室長らの研究チームによるもの。研究成果は、「International Journal of Hygiene and Environmental Health」に掲載されている。

画像はリリースより

 子どもの健康と環境に関する全国調査(以下、「エコチル調査」)は、胎児期から小児期にかけての化学物質ばく露が子どもの健康に与える影響を明らかにするために、平成22(2010)年度から全国で約10万組の親子を対象として環境省が開始した、大規模かつ長期にわたる出生コホート調査である。さい帯血、血液、尿、母乳、乳歯等の生体試料を採取し保存・分析するとともに、追跡調査を行い、子どもの健康と化学物質等の環境要因との関係を明らかにしている。

 エコチル調査は、国立環境研究所に研究の中心機関としてコアセンターを、国立成育医療研究センターに医学的支援のためのメディカルサポートセンターを、また、日本の各地域で調査を行うために公募で選定された15の大学等に地域の調査の拠点となるユニットセンターを設置し、環境省と共に各関係機関が協働して実施している。

 日本は地形や気候帯が多様で、国土の3分の2が森林に覆われた緑の豊かな国だが、これまで、日本において緑地環境と子どものアレルギーの関連性を検証した研究はほとんどなかった。今回の研究では、エコチル調査のデータを用いて、4歳時点の居住地周辺の緑地量とアレルギー疾患の関連を明らかにすることを目的とした。

緑地量が多いほどぜん息有病率は高く、アトピー性皮膚炎は低い傾向が判明

 今回の研究では、エコチル調査参加者で、3歳時点及び4歳時点のいずれも東京圏に居住し、かつ神奈川または千葉ユニットセンターに所属している参加者1万846人を対象に解析した。居住地周辺の緑地量は、衛星データに基づく指標であるNDVI(normalised difference vegetation index、正規化植生指数)により評価した。なお、緑地量を評価する範囲は、居住地を中心として半径300m、500m、800mの3通りを用い、いずれの範囲でも結果が一貫しているかを確認した。子どものアレルギー疾患は、質問票で保護者が回答したアレルギー疾患(ぜん息、アトピー性皮膚炎、食物アレルギーなど)の既往とISAAC(International Study of Asthma and Allergies in Childhood)質問票への回答により評価した。NDVIとアレルギー疾患との関連を検討するために、多変量ロジスティック回帰分析を用い、社会経済要因や子どもの属性などを調整の上、それぞれの疾患についてオッズ比(OR)および95%信頼区間(CI)を推定した。

 その結果、NDVIが高いほどぜん息の有病率は高い傾向が示された(医師による診断:調整オッズ比[95%信頼区間]1.12[1.05–1.18]、ISAACによる報告:1.11[1.05–1.18])。一方、アトピー性皮膚炎の有病率は低い傾向が示された(対応するオッズ比はそれぞれ0.93[0.87–1.00]および0.93[0.88–0.99])。これらの結果は、疾患によって異なる方向性の関連を示している。食物アレルギーやアレルギー性鼻炎については、NDVIとの明確な関連は認められなかった。

微生物や花粉の影響を示唆、緑地の質や植生の違いを考慮した検討が必要

 緑地量とアトピー性皮膚炎との間に観察された負の関係は、環境中の多様な微生物へのばく露が、アレルギー反応を抑える免疫のはたらきを高めるとする生物多様性仮説と整合的な結果であった。一方で、緑地量とぜん息との正の関連については、花粉などのアレルゲンばく露の増加や大気質との相互作用などが関与する可能性がある。

 「今回の研究では、緑地の質や植生の違い、大気環境などを評価できておらず、今後はそれらを考慮したさらなる検討が必要と考えられる。また、今回は、ある一時点のデータから関連を調べた研究(横断研究)であるため、因果の方向性は明確ではなく、本研究で観察された関連は、居住環境が健康に影響を与えた結果だけでなく、子どもの健康状態が居住環境の選択に影響した可能性(因果の逆転)にも留意が必要である」と、研究グループは述べている。(QLifePro編集部)

皮膚のセラミド不足がアトピー性皮膚炎の直接原因であることを世界初実証

宇都宮大、研究成果は、「The Journal of Pathology」にオンライン掲載

セラミド分解酵素を過剰発現させた新規モデルマウスを確立

 宇都宮大学は4月3日、皮膚のセラミド不足がアトピー性皮膚炎の直接原因であることを世界で初めて実証したと発表した。この研究は、宇都宮大学バイオサイエンス教育研究センターの芋川玄爾特任教授らによるもの。研究成果は、「The Journal of Pathology」にオンライン掲載されている。

 アトピー性皮膚炎患者の皮膚では、角層脂質であるセラミドが低下していることが知られていたが、これが病態の結果なのか、原因なのかは長年未解明であった。

 研究グループは、インボルクリンプロモーターの制御下で表皮上層に限定してセラミド分解酵素「酸性セラミダーゼ(aCDase)」を過剰に働かせたトランスジェニックマウスを作製し、この疑問の解明に挑んだ。

バリア破綻からアレルギー炎症に至る病態進展を実証

 今回の研究では、作製されたマウスで生後早期から重度の乾燥や鱗屑を伴うバリア機能の低下と水分保持能の低下が確認された。さらに、角層セラミドの大幅な減少に加え、表皮神経の増生と神経抑制因子Sema3aの低下も認められた。また、正常なマウスではほとんど反応が見られないダニ抗原刺激に対して、このマウスでは好酸球の浸潤、血中IgEの上昇、およびTh2関連分子(Ccl17、Ccl22、Il13など)の著明な増加といったアレルギー炎症が引き起こされた。

アトピー性皮膚炎の「outside-in仮説」を支持、創薬の基盤へ

 今回の研究成果により、セラミド欠乏がバリア破綻や神経過敏、そしてTh2型炎症へと至る一連の病態進展の出発点であることが明確になった。これはアトピー性皮膚炎の「outside-in仮説(皮膚の外側から内側へ病態が進む)」を強く支持する成果である。

 「今回の成果は、セラミド補充療法の科学的裏付け、酸性セラミダーゼ阻害戦略、かゆみ制御型スキンケア早期予防介入法の開発への応用が期待される」と、研究グループは述べている。

日焼けマシンでメラノーマ発症リスク3倍に

紫外線からの防御

 オランダがん研究所(アムステルダム)の皮膚科医で疫学者のElsemieke Plasmeijerは、自然の太陽光や日焼けマシンを通じて紫外線に過剰に曝露されることほど、長期的に見て皮膚に悪影響を及ぼすことはないと言う。紫外線は、最も致死率の高い皮膚がんであるメラノーマ(悪性黒色腫)の主要な原因となっている。世界保健機関(WHO)の国際がん研究機関(IARC)によると、2022年には約6万人がメラノーマにより死亡している。

 地表に到達する紫外線には主にUVAとUVBの2種類があり、皮膚に及ぼす影響はそれぞれ異なる。UVAは真皮に酸化ストレスを引き起こし、組織の構造を保つタンパク質のコラーゲンや、皮膚に柔軟性を与えるタンパク質のエラスチンを分解することでダメージを与える。一方、UVBは表皮にしか到達しないが、日焼けや、皮膚がんにつながる可能性のあるDNA損傷を引き起こす。2019年の研究から、UVAとUVBはいずれも、皮膚バリア内で細胞同士の接着を助けるタンパク質を阻害することが判明している1。その結果、角層細胞間の結合が弱まり、皮膚バリアのレジリエンス(復元力)が低下することになる。

 何時間もビーチで日光浴をしなくても、過剰な紫外線にさらされることはある。ノースウェスタン大学の皮膚科医で皮膚がんを専門とするPedram Geramiらは、2025年12月に、屋内日焼けマシンを使う人がメラノーマを発症するリスクは、使わない人の3倍も高いと報告した2。また、屋内日焼けマシンを使う人はメラノーマが複数できる傾向があり、太腿など、通常は日光によるダメージが少ない部位にも見られた。

 屋内日焼けサロン業界は、日焼けマシンは、DNAを損傷するUVBよりもUVAの方を多く発生させるため、自然光よりも安全だと主張することが多い。しかしGeramiによれば、この主張は間違っていることが多いという。「日焼けマシンが発生させるUVAの量は、屋外の自然光のUVAの約10~15倍にもなるのです」。WHOは日焼けマシンを、アスベストやタバコの煙と同じ最高レベルの「グループ1(ヒトに対する発がん性がある)」に分類している。

 長期的な追跡調査を行った複数の臨床試験により、日焼け止めを使用することで、メラノーマをはじめとする皮膚がんの発症リスクが大幅に低下することが示されている3,4。WHOは、UVAとUVBの両方を遮断する、SPF(UVBから皮膚を守る効果の指標)が30以上の広域スペクトルタイプの日焼け止めを使用するよう推奨している。しかしPlasmeijerは、長袖のシャツやつばの広い帽子などの日差しを遮る衣類を着用し、午前10時から午後2時にかけての日差しが最も強い時間帯には屋外に出ないようにすることが、最善の日焼け対策になると言う。

 彼女によると、こうした追加の対策を講じることが重要なのは、日焼け止めの品質には大きなばらつきがあるからだという。例えば2025年9月には、オーストラリアの医薬品規制当局である薬品・医薬品行政局(TGA)が日焼け止めの検査を行ったところ、一部の製品の基剤の処方に問題があって実際のSPF値が表示の数値を大幅に下回っていたことが判明し、人気の日焼け止めの一部が店頭から回収されるという騒ぎが起きている。

 日焼け止めを支持する膨大な証拠があるにもかかわらず、ソーシャルメディアではインフルエンサーが、日焼け止めが皮膚がんやビタミンD欠乏症を引き起こすといった根拠のない主張など、多くの誤情報を広めている。Plasmeijerは、このような誤情報の標的は、皮膚科医を受診する習慣のない若年層であることが多いと指摘する。「これらの情報が間違っていることを彼らに分からせるのは非常に難しいのです」と彼女は言う。

スキンケアはシンプルが良い

 市場には、若さを取り戻し、ダメージを修復する成分を含んでいるとうたうスキンケア製品があふれているが、その多くはうたい文句の裏付けとなる科学的根拠がほとんどないとLioは言う。例えば複数の研究で、バランスの取れたシンプルな保湿剤を使うことが、皮膚バリアの各層の維持と修復に役立つことが示されている5。Lioは、最も効果的な保湿剤には、エモリエント(柔軟剤)、ヒューメクタント(湿潤剤)、オクルーシブ(閉塞剤)という3つの主要な成分が含まれていると説明する。油脂類などのエモリエントは、皮膚を柔らかくし、皮膚細胞と脂質の間の隙間を埋めることで、水分の損失を防ぐ。ヒアルロン酸などのヒューメクタントは、外気や真皮の水分を肌の表面に引き寄せる。ワセリンなどのオクルーシブは、皮膚の上に膜を形成して水分の蒸発を防ぐ。

 Kattaによると、他にも、研究による裏付けがあり、特定の皮膚トラブルの解決に役立つ成分がいくつかあるという。1つはレチノイドだ。レチノイドはビタミンA誘導体の一種で、にきび、乾癬、老化の治療によく用いられている。これらの分子は、細胞の代謝回転とコラーゲンの生成を促進することで、しわやしみを軽減する。また、にきびを悪化させる複数の炎症経路を遮断したり、皮膚内の既存のコラーゲンの分解を遅らせたりする効果もある。「レチノイドは、救世主と言える分子の1つです」とKattaは言う。

 また、ビタミンCなどの抗酸化物質は、皮膚の脂質やDNA、タンパク質を損傷させる、不安定で反応性の高い分子である遊離基(フリーラジカル)に対する防御力を高める。2017年に健康な成人を対象に行われた研究では、ビタミンCなどの抗酸化物質を前腕に塗布すると、大気汚染の主要成分であるオゾンにさらされた際に、コラーゲンやエラスチンを分解する酵素の活性化を防げることが示された6

 しかし、ノースカロライナ州立大学(米国カナポリス)の再生医療研究者で、皮膚の専門家であるGiuseppe Valacchiは、保湿剤や高機能成分をどれだけ使っても、不健康な生活習慣による影響を打ち消すことはできないとくぎを刺す。例えば喫煙は、皮膚の修復機構を阻害し、コラーゲンやエラスチンを分解し、さらに皮膚へ栄養素を運ぶ血流を減少させることで、皮膚に大きなダメージをもたらす。「皮膚の上から何を塗ろうとも、ダメージを軽減する効果はありません」とValacchiは言う。

 Harris-Tryonによると、健康な皮膚を維持するための生活習慣において重要な要素の1つは、抗酸化物質、アミノ酸、脂質を豊富に含む、栄養価の高い食事を取ることだという(2025年1月号「食事で免疫系をコントロールできるか?」参照)。そして皮膚は、「その人が栄養不足であるかどうかを視覚的に確認できる最初の場所」だと彼女は言う。皮膚と腸が深く結び付いていることを示す証拠も増えている。いくつかの研究では、腸のマイクロバイオームの変化が皮膚の炎症シグナルを変化させることが判明しており、胃腸の健康と、乾癬などの皮膚疾患との間に関連がある可能性が示唆されている7,8。しかし、その正確な機構はまだ完全には解明されていないとHarris-Tryonは言う。

 皮膚は体内の健康状態をのぞき見るための窓であるだけでなく、全身の健康にも寄与している。Manらはマウスを用いた研究で、しわだらけの老化した皮膚では、若い皮膚に比べてサイトカインと呼ばれる炎症性分子の発現量が多いことを発見している。これは、皮膚が加齢とともに徐々に進行する背景的な炎症、すなわち炎症老化(inflammageing)に関与している可能性を示している。2019年の小規模な研究9では、高齢者の皮膚にエモリエントを塗布することで、血流中のサイトカイン濃度が低下することが見いだされ、エモリエントの塗布が炎症に関連する加齢性疾患の予防に役立つ可能性が示唆されている。

 完璧そうに見える肌を約束するスキンケア製品や手の込んだスキンケアルーティンは数え切れないほど存在するが、健康な皮膚を維持するには、往々にしてシンプルな手法が求められるとKattaは言う。「皮膚の機能について考えるなら、必ずしも美しく見える必要はありません」と彼女は言う。「皮膚の本来の役割は、外界の脅威から私たちを守ることにあるのです」。

 

参考文献
1. Lipsky, Z. W. & German, G. K. J. Mech. Behav. Bio. Mat. 100, 103391 (2019).
2. Gerami, P. et al. Sci. Adv. 11, eady4878 (2025).
3. Green, A. et al. Lancet 354, 723–729 (1999).
4. Watts, C. G. et al. JAMA Dermatol. 154, 1001–1009 (2018).
5. Rajkumar, J., Chandan, N., Lio, P. & Shi, V. Skin Pharmacol. Physiol. 36, 174–185 (2023).
6. Valacchi, G. et al. J. Invest. Derm. 137, 1373–1375 (2017).
7. Zakostelska, Z. et al. PLoS ONE 11, e0159539 (2016).
8. Mahmud, M. R. et al. Gut Microbes 14, 2096995 (2022).
9. Ye, L. et al. J. Eur. Acad. Dermatol. Venereol. 33, 2197–2201 (2019).

Nature ダイジェスト Vol. 23 No. 7
DOI: 10.1038/ndigest.2026.260725

原文
Forget SkinTok: the real science of skincare and why it matters for your health
Nature (2026-03-12) | DOI: 10.1038/d41586-026-00700-y
Gemma Conroy

 

思春期にニキビ治療薬isotretinoin、身長の伸びに関連せず

■この記事のポイント

  • 全国規模の横断研究で、思春期のisotretinoin服用は成人期の身長が低くなることと関連していなかった。
  • 開始年齢や累積投与量で層別化した解析や、発育不全を指標とした副次解析でも同様の結果が得られた。
  • 本研究の成果は、思春期のざ瘡患者に対するisotretinoin治療に対して、エビデンスに基づく意思決定をサポートするものである。

重要性 isotretinoinは中等度から重度のざ瘡に効果的な治療法であるが、思春期に服用することが身長の伸び(linear growth)を損なうのではないかという懸念が存在する。

目的 思春期にisotretinoinを使用することが成人期の身長が低くなることと関連しているかどうかを検討すること。

デザイン、設定、および対象者 この全国人口ベースの横断研究では、2001年1月1日から2015年12月31日の間にデンマークで兵役の対象となった個人(男性および女性の志願者全員を含む)を分析した。兵役記録は固有の個人識別子を介して、全国のデンマークレジストリから前向きに収集されたデータにリンクされた。身長の記録がない個人、または不自然な身長の値を持つ個人は除外された。データは2025年4月から2026年1月にかけて分析された。

曝露 アウトカム評価の前に、リンクされた処方記録から確認されたisotretinoin、経口テトラサイクリン系抗菌薬、または外用ざ瘡治療薬の過去の使用。ざ瘡治療の処方や病院でざ瘡と診断されたことがない個人を対照群とした。

主要評価項目および測定法 兵役時に測定された成人の身長。出生コホートと教育水準で調整した線形回帰モデルを用いて、身長の平均差を推定した。事前に定義された臨床的に意味のある最小差は5cm以上であった。分析は、兵役前のisotretinoin開始時の年齢および累積投与量によって層別化された。発育不全を副次評価項目として検討した。

結果 本研究には379,196人の個人が含まれ、そのうち368,338人が男性(16,739人[4.5%]がisotretinoin使用者)、10,858人が女性(278人[2.6%]がisotretinoin使用者)であった。兵役時の年齢中央値は、男性で19.0歳(IQR、18.7-20.0歳)、女性で19.2歳(IQR、18.7-20.5歳)であった。19歳時点の平均(SD)身長は、男性で180.4(6.7)cm、女性で168.3(5.9)cmであった。曝露の違いによる成人の身長のばらつきはほとんどなかった。対照群と比較して、isotretinoin群の調整後平均身長差は、男性で0.31cm(95% CI、0.20-0.41cm)、女性で0.25cm(95% CI、-0.47-0.96cm)であり、どちらの推定値も事前に定義された臨床的に意味のある最小差を下回っていた。これらの知見は、開始時の年齢や累積投与量で層別化した分析、および発育不全をアウトカムとした場合にも一貫していた。

結論および関連性 この全国的な横断研究では、ざ瘡に対するisotretinoinは成人期の身長が低いことと関連していなかった。これらの知見は、思春期のisotretinoin治療を検討する際のエビデンスに基づく意思決定に役立つ可能性がある。

 

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov