皮膚科領域におけるAIベース創薬アプローチ
乾癬の治療は、IL-23/IL-17軸を標的とする生物学的製剤の登場により劇的に変わりました。生物学的製剤が治療の主流になるにつれ、より早期から導入することで乾癬性関節炎をはじめとする合併症を抑制できる可能性も重要視されるようになっています。
しかし、全身療法を行うことに対する患者の精神的な抵抗や経済的負担から、全ての患者が生物学的製剤で治療されるわけではありません。そのため、外用療法も大切な治療選択肢です。現在、ステロイド外用薬とビタミンD3外用薬が中心ですが、近年タピナロフクリームが登場したことで選択肢は増えてきました。しかし、IL-17軸を直接狙うような外用薬はまだありません。
本論文は、表皮角化細胞において、IL-17受容体A(IL17RA)の細胞表面発現を制御する遺伝子をゲノムワイドCRISPRノックアウトスクリーニングで網羅的に探索し、さらに大規模言語モデル(LLM)を用いた新規性評価によって候補を絞り込み、既存薬の外用によりマウス乾癬様皮膚炎を抑制するところまでを示した研究です。
「AIで標的を選ぶ」という創薬アプローチそのものが皮膚科領域で提示された点も含めて、紹介したいと思います。
論文概要
ノックアウトスクリーニングとLLMによる新規性評価
本研究ではまず、ヒト表皮角化細胞(HEKa)を用いたゲノムワイドCRISPRノックアウトスクリーニングが行われた。Brunello CRISPRノックアウトライブラリを導入することで、約19000遺伝子を標的とするsgRNAによって遺伝子機能を網羅的に破壊し、IL17RA表面発現が高い細胞と低い細胞を、それぞれ上位・下位約5%でFACSにより分取した。その結果、低発現群で472遺伝子、高発現群で724遺伝子がヒットとして同定された。
次に、「これまでにIL17RAとの関連が知られていない」候補を優先的に拾い上げるため、VirtualCRISPRというLLMベースの手法を用いて、その新規性を評価した。最終的に生物学的妥当性や創薬可能性などを満たす候補として、オキシトシン受容体(OXTR)とアラキドン酸5-リポキシゲナーゼ(ALOX5)が選定された。ALOX5に対してはFDA承認薬であるzileuton(喘息治療薬)が、OXTRに対しては選択的拮抗薬cligosibanが存在するが、これまでに角化細胞のIL17RA調節因子としては報告されていなかった。
続いて標的検証が行われた。HEKaでOXTR、ALOX5を個別にノックアウトすると、いずれもIL17RAの細胞表面発現が有意に低下した。ALOX5およびOXTRノックアウトでは、CXCL1、IL-6、IL-1βといった炎症性サイトカインの分泌も減少した。プロテオーム解析では、ALOX5ノックアウトによりIVLやペリプラキンなど分化・バリア関連蛋白が増加し、炎症性脂質代謝関連のLPCAT2・CYP2S1が減少した。OXTRノックアウトでは乾癬皮膚のアラーミンとして知られるS100A8・S100A9が最も強く減少した。
in vivoでは、zileutonとcligosibanを外用製剤化し、イミキモド誘導乾癬様皮膚炎モデルマウスに投与して、その作用を検証した。両薬剤とも修正版PASIスコアを有意に低下させ、5日目以降に改善が顕著となり、7日目には皮膚所見が著明に改善した。その改善の大きさは、このマウスモデル内では全身投与した抗IL17RA抗体に匹敵した。しかし、両薬剤の併用は単剤と同程度の効果であり、明確な上乗せ効果は認められなかった。
候補遺伝子の作用機序
作用機序についても検討されている。ALOX5については、その下流産物であるロイコトリエンB4(LTB4)が用量依存的に角化細胞のIL17RA表面発現を増加させ、逆にzileutonはこれを低下させた。この低下はdynamin阻害薬dynasoreで完全に打ち消されたことから、ALOX5経路はdynamin依存性のエンドサイトーシスを抑制することでIL17RAの細胞表面局在を維持している可能性が示された。
OXTRについては、オキシトシン刺激でIL17RAが増加し、cligosibanで用量・時間依存性に減少したが、これらの効果はカルシウムキレートやカルシニューリン阻害(タクロリムス)で消失し、ionomycinによるカルシウムシグナル活性化でcligosibanの効果は打ち消され、NFAT阻害でオキシトシンの効果が消失した。すなわち、OXTRはカルモジュリン-カルシニューリン-NFAT軸を介してIL17RA発現を制御していると考えられた。
最後に、末梢血単核球(PBMC)に対するscRNAseqにおいて、患者では単球・樹状細胞・CD8陽性T細胞が増加し、NK細胞が相対的に減少しており、ALOX5の発現はS100A8/A9/A12とともに患者で上昇していた。一方でOXTRは免疫細胞では有意な上昇を示さず、上皮性の制御機構であることが示唆された。患者由来PBMCの培養上清ではLTB4濃度が有意に高く、免疫細胞のALOX5経路活性が角化細胞のIL17RA発現に影響する可能性が示唆された。
私の視点
本論文の面白さは方法論にあり
本論文の面白さは、生物学的な発見そのものよりも、「どうやって標的を見つけたか」という方法論にあると感じました。ゲノムワイドCRISPRスクリーニングもすごい技術革新ですが、そこで数百の候補が出てきたときに、そこから何を選ぶかは結局のところ研究者の勘と既存知識に依存してきました。しかし、既存知識に基づいて選ぶと、どうしても既知のパスウェイの周辺に着地してしまいます。
本研究はここで発想を逆転させ、LLMが「予測できない」=「文献に乏しい」候補こそが新規性の高い標的だとして拾い上げました。AIを、答えを出す道具としてではなく、既知と未知を切り分ける物差しとして使っている点が巧みです。この枠組み自体は、乾癬に限らず、あらゆる疾患の標的探索に応用できるでしょう。AIの発展により創薬は大きく変わっていくと考えられます。
一方で、著者ら自身も述べているとおり、この予測は学習データの範囲に依存します。「文献にない」ことは「新規」であると同時に「これまで誰かが調べて否定的だった」可能性も含みますし、ネガティブデータは論文化されにくいという出版バイアスの可能性も当然あります。だからこそ本論文が、AIによる優先順位づけの後に、ノックアウト・プロテオーム・動物実験と丁寧に検証を重ねている点は評価されるべきだと思います。
乾癬の病態に関して言えば、ALOX5とOXTRという全く由来の異なる2つの経路が、いずれもIL17RAの細胞表面発現量という一点に収束していることが興味深いところです。しかもその機序は、ALOX5がロイコトリエンを介した受容体の内在化制御、OXTRがカルシウム-カルシニューリン-NFAT軸を介した発現制御と全く異なります。抗体でリガンドや受容体をブロックするという機序以外に、受容体の発現量そのものを下げるという治療戦略を示した点は興味深いです。
日常臨床への生かし方
IL-17軸を上流から抑える外用薬の開発につながるか
現時点では、本論文の内容を直接臨床応用できるわけではありません。zileuton外用薬もcligosiban外用薬も存在せず、あくまでモデルマウスを用いた研究です。
しかし、IL-17軸を上流から抑える外用薬という選択肢が将来的に生まれる可能性が示されたことは大きいと思います。生物学的製剤でも難治な皮疹は存在します。外用薬であれば皮疹に直接アプローチできます。zileutonはFDA承認済みの薬剤であり、安全性プロファイルが確立されているため、開発への道筋は比較的短い可能性があります。
また興味深いのは、カルシニューリン阻害薬に関する知見です。本論文では、タクロリムスがオキシトシン-OXTR経路を介したIL17RA発現上昇を阻害することが示されています。タクロリムス軟膏はアトピー性皮膚炎に対して適応のある外用剤ですが、乾癬の皮疹に対しても有効なことはよく知られています。その作用機序として、T細胞抑制だけでなく、角化細胞のIL17RA発現低下という側面もあるかもしれません。
最後に、ゲノムワイドスクリーニングとAIによる優先順位づけ、既存薬のリポジショニングという流れは、患者数の少ない皮膚疾患ほど有用性が高いと思われます。有効な治療薬が存在しない多くの皮膚疾患の患者さんにとっての福音になることを期待します。