デルマニアのブログ

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とある皮膚科医のブログです。

進行悪性黒色腫、TIL療法でPFSが延長/NEJM

 進行悪性黒色腫の治療において、腫瘍浸潤リンパ球(TIL)を用いた養子免疫細胞療法は、抗細胞傷害性Tリンパ球抗原-4(CTLA-4)抗体であるイピリムマブと比較して、無増悪生存期間(PFS)を有意に延長させ、病勢進行と死亡のリスクが半減したとの研究結果が、オランダがん研究所(NKI)のMaartje W. Rohaan氏らによって報告された。研究の成果は、NEJM誌2022年12月8日号に掲載された。

欧州2施設の無作為化第III相試験

 本研究は、進行悪性黒色腫の1次または2次治療におけるTILとイピリムマブの有用性の比較を目的とする非盲検無作為化第III相試験であり、2014年9月~2022年3月の期間に、2施設(NKI、デンマーク国立がん免疫療法センター[CCIT-DK])で参加者の登録が行われた(Dutch Cancer Societyなどの助成を受けた)。

 対象は、年齢18~75歳、StageIIICまたはIVの切除不能または転移を有する悪性黒色腫の患者であった。被験者は、TILまたはイピリムマブ(3mg/kg[体重]、3週ごと、最大4回、静脈内)の投与を受ける群に、1対1の割合で無作為に割り付けられた。

 TIL群は、骨髄非破壊的リンパ球除去化学療法(シクロホスファミド+フルダラビン)を施行された後、5×109~2×1011個のTILを1回注入され、次いで高用量インターロイキン-2(60万IU/kg/回、8時間ごと、最大15回)の投与が行われた。

 主要評価項目は、PFSであった。

PFS、奏効割合が2倍以上に

 168例が登録され、TIL群に84例、イピリムマブ群にも84例が割り付けられた。全体の年齢中央値は59歳(範囲26~77)、男性が100例(60%)であった。前治療歴のある患者は89%で、残りの11%は未治療だった。149例(89%)は、全身療法(術後抗PD-1療法が40例[24%]、抗PD-1療法による1次治療が105例[62%])を受けたのち病勢が進行した患者であった。追跡期間中央値は33.0ヵ月。

 PFS中央値は、TIL群が7.2ヵ月(95%信頼区間[CI]:4.2~13.1)と、イピリムマブ群の3.1ヵ月(3.0~4.3)に比べ有意に延長した(病勢進行と死亡のハザード比[HR]:0.50、95%CI:0.35~0.72、p<0.001)。6ヵ月時のPFS率は、それぞれ52.7%(95%CI:42.9~64.7)および21.4%(14.2~32.2)であった。

 客観的奏効の割合は、TIL群が49%(95%CI:38~60)、イピリムマブ群は21%(13~32)であった。このうち、完全奏効がそれぞれ20%および7%、部分奏効は29%および14%であった。

 全生存期間(OS)中央値は、TIL群が25.8ヵ月(95%CI:18.2~未到達)、イピリムマブ群は18.9ヵ月(13.8~32.6)であった(死亡のHR:0.83、95%CI:0.54~1.27)。2年OS率は、それぞれ54.3%および44.1%だった。

 Grade3以上の治療関連有害事象は、TIL群が全例、イピリムマブ群は57%で発現し、TIL群は主に化学療法関連の骨髄抑制であった。重篤な治療関連有害事象は、それぞれ15%および27%で認められた。TIL群では、前処置としてのリンパ球除去化学療法によるGrade 3以上の好中球数減少が全例で、インターロイキン-2関連の毛細血管漏出症候群(全Grade)が30%で発現した。

 著者は、「本試験では、前治療歴のない集団、術後補助療法として抗PD-1療法を受けた集団、1次治療で抗PD-1療法を受けた集団において、無増悪生存期間中央値に大きな差はなかった。これは、TIL療法の1次治療としての可能性を示唆するが、治療法の選択では、患者や疾患の特性(脳転移、血清乳酸脱水素酵素の高値、全身状態不良)、潜在的な毒性などが重要な役割を担う」としている。

 

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

がんワクチン、ペムブロリズマブ併用でメラノーマの死亡リスク44%低下 /MERCK

 
米医薬品のモデルナとメルクは13日、新型コロナウイルスワクチンで使用されたメッセンジャーRNA(mRNA)技術を活用したがんワクチンに関する中期臨床試験で、メラノーマ(黒色腫)治療で有効性が示されたと発表した。

 

www.merck.com

 

bDMARD未治療の乾癬性関節炎、ビメキズマブの有効性は?/Lancet

 生物学的疾患修飾性抗リウマチ薬(bDMARD)による治療歴がない乾癬性関節炎患者において、ビメキズマブはプラセボと比較して、16週時の関節、皮膚、画像的な有効性アウトカムについて有意な改善が認められた。真菌感染の発現を含むビメキズマブの安全性プロファイルは、尋常性乾癬患者を対象にしたIL-17A阻害薬のこれまでの第III相試験結果と一致していた。英国・グラスゴー大学のIain B. Mclnnes氏らが、14ヵ国135施設で実施された52週間の第III相無作為化二重盲検プラセボ対照実薬(アダリムマブ)参照試験「BE OPTIMAL試験」の結果を報告した。ビメキズマブは、IL-17AおよびIL-17Fを選択的に阻害するモノクローナルIgG1抗体で、ビメキズマブの有効性と安全性は並行して実施されたBE OPTIMAL試験とBE COMPLETE試験の2つの第III相試験で検証された。Lancet誌オンライン版2022年12月6日号掲載の報告。

ビメキズマブの有効性と安全性を対プラセボで検証

 BE OPTIMAL試験は、52週間の無作為化二重盲検プラセボ対照実薬(アダリムマブ)参照試験で、16週間のプラセボ対照二重盲検期と、36週間の治療盲検期で構成される。本論では、事前に計画された24週時の主要解析結果が報告された。

 適格基準は、18歳以上でスクリーニングの6ヵ月以上前から国際的な乾癬性関節炎の分類基準(CASPAR)を満たし、圧痛関節数(TJC)が3関節以上(68関節中)、腫脹関節数(SJC)が3関節以上(66関節中)、1ヵ所以上の活動性の乾癬病変または乾癬の既往患者で、乾癬性関節炎または乾癬に対して生物学的製剤の投与歴がある患者は除外した。

 患者を、ビメキズマブ(1回160mgを4週ごとに皮下投与)群、プラセボ(2週ごとに皮下投与)群、アダリムマブ(1回40mgを2週ごとに皮下投与)群に3:2:1の割合で無作為に割り付けた(地域[北米、西ヨーロッパ、東ヨーロッパ、アジア]および骨びらん数[0または1以上]で層別化)。プラセボ群は、16週時にビメキズマブ(1回160mgを4週ごとに皮下投与)に切り替え、52週まで投与した。なお、本試験では、ビメキズマブ群またはプラセボ群と、アダリムマブ群を比較するための検出力はなかった。

 主要エンドポイントは、米国リウマチ学会分類基準の50%以上改善(ACR50)を達成した患者の割合とし、解析にはnon-responder imputation法(評価が得られなかった症例はノンレスポンダーとして補完)を用いた。有効性解析対象集団は無作為化された全患者(intention-to-treat集団)、安全性解析集団は治験薬の投与を1回以上受けた患者とした。

ACR50達成率はビメキズマブ群44%、プラセボ群10%

 2019年4月3日~2021年10月25日の期間に、1,163例がスクリーニングを受け、852例がビメキズマブ群(431例)、プラセボ群(281例)、アダリムマブ群(140例)に無作為に割り付けられた。

 16週時のACR50達成率は、ビメキズマブ群44%(189/431例)、プラセボ群10%(28/281例)、アダリムマブ群46%(64/140例)であり、プラセボ群と比較してビメキズマブ群で有意に高かった(オッズ比:7.1、95%信頼区間:4.6~10.9、p<0.0001)。

 16週時までに治療下で発現した有害事象は、ビメキズマブ群で431例中258例(60%)、プラセボ群で281例中139例(49%)、アダリムマブ群で140例中83例(59%)報告された。死亡例はなかった。

 

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/36493791

 

ビメキズマブが乾癬性関節炎の症状を改善 第Ⅲ相ランダム化試験BE OPTIMAL

 英・University of GlasgowのIain B. McInnes氏らは、生物学的製剤による治療歴のない乾癬性関節炎患者1,163例を対象に、抗インターロイキン(IL)-17抗体ビメキズマブの有効性と安全性を評価する第Ⅲ相ランダム化比較試験BE OPTIMALを実施。プラセボ投与群と比べてビメキズマブ投与群では投与16週時点における関節症状および皮膚症状が良好であったことをLancet2022年12月5日オンライン版)に報告した。

日本を含む14カ国135施設で実施

 ビメキズマブは炎症性サイトカインIL-17AおよびIL-17Fを選択的に阻害し、強い炎症抑制効果が期待される。中等度〜重度の尋常性乾癬患者を対象とした第Ⅲb相試験BE RADIANTでは、ビメキズマブはセキヌマブに比べて有意な皮膚症状の改善を示し(N Engl J Med 2021; 385: 142-152)、アダリムマブを対照とした第Ⅲ相試験BE SUREおよびウステキヌマブおよびプラセボを対照とした第Ⅲ相試験BE VIVIDにおいても同様の結果を示している(N Engl J Med 2021; 385: 130-141Lancet 2021; 397: 487-498)。中等度〜重度の乾癬性関節炎患者を対象とした第Ⅱb相試験BE ACTIVEでも、ビメキズマブの有効性と忍容性が示され、非盲検の延長試験では3年まで改善が持続することが確認されている(Lancet 2020; 395: 427-440)。

 BE OPTIMAL試験の対象は18歳以上の生物学的製剤未治療の乾癬性関節炎患者で、日本を含む14カ国135施設で実施された。2019年4月〜21年10月に登録された1,163例のうち852例を、ビメキズマブ群(431例、4週間ごとにビメキズマブ160mg投与)、プラセボ群(281例、2週間ごとにプラセボ投与)、参照群(140例、2週間ごとにアダリムマブ40mg投与)に3:2:1でランダムに割り付け52週間投与。なお、プラセボ群は16週目に非盲検化し、4週間ごとのビメキズマブ160mg投与に切り替えた。

 主要評価項目は16週時点の米国リウマチ学会コアセット改善50%以上(ACR50)の達成率、副次評価項目は16週時点におけるHealth Assessment Questionnaire Disability Index(HAQ-DI)スコアのベースラインからの変化、ベースラインで体表面積(BSA)の3%以上に影響を及ぼす乾癬患者における乾癬重症度指標(Psoriasis Area Severity Index)の90%以上の改善(PASI90)などだった。手足の関節破壊の進行はvan der Heijde modified Total Sharp Score(vdHmTSS)を用いて、骨浸食と関節腔狭窄の程度を定量化して評価した。

 有効性の解析対象はランダムに割り付けられた全患者(intention-to-treat集団)、安全性の解析対象は1回以上の投与が行われた患者とし、今回の報告では24週目までの解析データが示された。

ビメキズマブ群では44%がACR50達成

 16週時点でACR50を達成した患者の割合は、プラセボ群の10%(281例中28例)に対してビメキズマブ群では44%(431例中189例)と有意に高かった(オッズ比 7.1、95%CI 4.6〜10.9、P<0.0001)。アダリムマブ群は46%(140例中64例)だった。全ての副次評価項目についてもプラセボ群に比べてビメキズマブ群では有意な改善を示した。

 16週目までの治療関連有害事象は、ビメキズマブ群258例(60%)、プラセボ群139例(49%)、アダリムマブ群83例(59%)で発現したが、死亡例はなかった。ビメキズマブ群では鼻咽頭炎、上気道感染症、頭痛、下痢の頻度が高かったが、新たな安全性上の問題は認められなかった。

 なお、今後は52週目までの長期データと非盲検延長試験のデータの報告が予定されている。

 

帯状疱疹の既往で長期的な脳卒中・冠動脈疾患リスクが増大

 帯状疱疹脳卒中および冠動脈疾患の関連を検討したところ、帯状疱疹の既往が脳卒中および冠動脈疾患の長期的なリスクを高め、そのリスクは帯状疱疹発症から12年以上継続する可能性があることを、米国・Brigham and Women's HospitalのSharon G. Curhan氏らが明らかにした。Journal of the American Heart Association誌2022年11月16日掲載の報告。

 調査は、米国の3つの大規模コホート研究であるNurses' Health Study(NHS)、Nurses' Health Study II(NHS II)、Health Professionals Follow-Up Study(HPFS)を用いて行われた。解析対象は、これまでに脳卒中や冠動脈疾患の既往のないNHSの女性7万9,658例(平均年齢65.8歳)、NHS IIの女性9万3,932例(平均年齢46.2歳)、HPFSの男性3万1,440例(平均年齢69.5歳)の合計20万5,030例であった。

 帯状疱疹脳卒中、冠動脈疾患の発症の有無は、隔年のアンケートで聴取し、診療記録で確認した。Cox比例ハザード回帰モデルを使用して、帯状疱疹の既往の有無や経過年数から、脳卒中および冠動脈疾患の多変数調整ハザード比(HR)を推定した。

 主な結果は以下のとおり。

・200万人年を超える追跡期間中、3,603例の脳卒中と8,620例の冠動脈疾患が生じた。帯状疱疹の既往は、脳卒中および冠動脈疾患の長期リスクの増大に有意かつ独立して関連していた。
・3つのコホートを統合して解析した結果、帯状疱疹の既往がない群と比べ、帯状疱疹の既往がある群の脳卒中の多変数調整HRは、帯状疱疹発症から1~4年で1.05(95%信頼区間[CI]:0.88~1.25)、5~8年で1.38(1.10~1.74)、9~12年で1.28(1.03~1.59)、13年以上で1.19(0.90~1.56)であった。
・同様に、帯状疱疹の既往がある群の冠動脈疾患の多変数調整HRは、帯状疱疹発症から1~4年で1.13(95%CI:1.01~1.27)、5~8年で1.16(1.02~1.32)、9~12年で1.25(1.07~1.46)、13年以上で1.00(0.83~1.21)であった。
・心血管疾患の複合イベントの多変数調整HRは、帯状疱疹発症から1~4年で1.11(95%CI:1.01~1.23)、5~8年で1.26(1.13~1.41)、9~12年で1.27(1.11~1.46)、13年以上で1.08(0.92~1.28)であった。

 研究グループは、これらの結果から「帯状疱疹の既往は長期的な心血管疾患の発症に影響を及ぼすため、帯状疱疹の予防が重要である」とまとめた。

 

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

血中デュピルマブ値と治療反応、有害事象は関連するか?

 デュピルマブ治療を受けるアトピー性皮膚炎(AD)成人患者の治療反応および有害事象は、血中デュピルマブ値と関連しているのか。オランダ・ユトレヒト大学のLotte S. Spekhorst氏らは、前向きBioDayレジストリのデータを利用した臨床前向き観察コホート試験で、被験者の16週時点の血中デュピルマブ値は広範囲にわたったが、1年時点の評価で治療反応や有害事象との関連は認められなかったことを明らかにした。

 AD成人患者へのデュピルマブ用量は隔週300mgとされている。今回の結果を踏まえて著者は、「デュピルマブの奏効は、インターロイキン-4(IL-4)受容体サブユニットαをターゲットとしていることに依存しており、患者間のばらつきが奏効の不均一性を生み出している可能性がある」と述べている。JAMA Dermatology誌オンライン版2022年11月2日号掲載の報告。

 研究グループは、AD成人患者における16週時点の血中デュピルマブ値を評価し、血中デュピルマブ値と治療反応および有害事象との関連を調べる検討を行った。被験者は、前向きBioDayレジストリの登録患者で、デュピルマブ治療を開始済みで16週時点の血清サンプルを入手できた成人患者であった。全被験者は、ユトレヒト大学でBioDayプロトコルに従って治療を受け、デュピルマブ負荷用量600mgを皮下投与され、その後隔週で300mgを投与された。

 主要評価項目は、ベースライン、16週時点、52週時点でEczema Area and Severity Index(EASI)を用いて評価したAD疾患重症度であった。

 治療反応は、対ベースラインのEASIスコアの減少率(EASI 90は90%減少など)と、EASIカットオフスコアの絶対値が7以下(コントロールされたAD)で定義。有害事象は1年間記録された。16週時点で血中デュピルマブ値と治療反応を測定して解析。多変量ロジスティック回帰モデルを用いて、共変量の年齢と性別を考慮した16週時点の血中デュピルマブ値で、52週時点の奏効の予測値(EASI 90;EASI≦7)と有害事象を確認した。16週前に投与量を調整・中止した患者は除外し、2022年1月~6月にデータを解析した。

 主な結果は以下のとおり。

・合計295例のAD患者(平均年齢41.5[SD 15.9]歳、男性170例[57.6%])において、治療16週時点の血中デュピルマブ中央値は86.6μg/mL(四分位範囲[IQR]:64.6~110.0[範囲:10.1~382.0])であった。
・16週時点で、レスポンダー(EASI<50、50、75または90)であった被験者において血中デュピルマブ値に有意差はみられなかった。
・多変量ロジスティク回帰分析の結果、16週時点の血中デュピルマブ値は長期反応性(EASI 90のオッズ比[OR]:0.96[95%信頼区間[CI]:0.90~1.04]、p=0.34)(EASI≦7のOR:1.03[95%CI:0.93~1.14]、p=0.55])および有害事象(OR:1.01[95%CI:0.95~1.07、p=0.83])の予測因子とはならなかった。

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

アトピーの発症年齢に遺伝が関与

 これまで、アトピー性皮膚炎(AD)の発症にはフィグリン(FLG)遺伝子変異などの遺伝的要因が関与することが報告されているが、遺伝的要因と発症年齢との関係についてはほとんど研究されていない。理化学研究所生命医科学研究センターファーマコゲノミクス研究チームの曳野圭子氏らは、バイオバンク・ジャパン(BBJ)に登録された日本人AD患者のデータを用いて発症年齢に遺伝的要因が及ぼす影響を調査。その結果、AD発症年齢の遺伝基盤を解明したとJ Invest Dermatol2022; 142: 3337-3341)に発表した(関連記事「自己免疫疾患とアレルギーに共通の特徴」)。

日本人AD患者を対象に大規模ゲノムワイド関連解析

 さまざまな疾患について遺伝的要因の発症年齢への関与が研究されているが、アレルギー疾患ではほとんど例がない。特にADは、主に欧州の集団を対象とした限られた研究のみで、アジア人集団において全ゲノムレベルで発症年齢の遺伝基盤を解明することが求められていた。

 研究グループはこれまで、BBJに登録された日本人のAD患者群2,639例と対照群11万5,648例を対象とした大規模ゲノムワイド関連解析(GWAS)を行い、17カ所の疾患感受性領域を同定。日本人においてAD発症に関与する一塩基多型(SNP)としてNLRP10領域とCCDC80領域を報告している(J Allergy Clin Immunol 2021; 148: 1293-1306)。今回、さらに発症年齢に関する情報を有するAD患者1,344例を対象に遺伝的要因と発症年齢との関連を調べた。

NLRP10領域が早期発症に関与

 まずGWASで先述の17カ所の疾患感受性領域と発症年齢の関連を調べたところ、NLRP10領域との有意な関連が認められ(P<5.8×10-4)、リスクアレル保有者では発症年齢が約3年早まることが示された。NLRP10領域以外の16カ所の疾患感受性領域におけるリスクアレル数、遺伝的リスクスコア(GRS)と発症年齢との相関を調べたところ、いずれも発症年齢と有意な逆相関が認められた。

 また、17カ所いずれかの疾患感受性領域にリスクアレルを保有する者では、平均すると約6カ月発症が早いことが分かった。これらのことから、疾患感受性遺伝子は年齢特異性を考慮して解釈すべきであり、遺伝的影響が強いほど早期発症につながることが示された。

発症年齢による症状の違いは遺伝的要因の可能性

 次に、AD発症年齢別に遺伝的リスクの効果量を検討したところ、発症年齢による相違が見られた()。このことから、疾患感受性領域ごとに発症年齢に及ぼす影響の強さが異なり、ADのフェノタイプの違いは遺伝的要因によるものである可能性が示唆された。

図. 発症年齢別に見たNLRP10領域の効果量

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理化学研究所プレスリリースより)

 以上を踏まえ、曳野氏は「日本人では、NLRP10領域のリスクアレル保有者でAD発症年齢が約3年早まること、ADは年齢依存的な多遺伝子構造を示し、遺伝的リスクが高いほど発症が早まることを明らかにした。さらに、疾患感受性領域ごとに発症年齢に及ぼす遺伝的影響の強さは異なることも分かった」と結論。その上で「発症年齢によるADの病態の違いのさらなる解明につながり、病態に応じた新規治療法や予防法の開発、高リスク患者に対する遺伝的発症リスクの大きさで層別化した早期介入の実現が期待できる」と展望している。