デルマニアのブログ

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とある皮膚科医のブログです。

GLP-1作動薬で甲状腺がんリスク上昇 RCT 64件のメタ解析

 グルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)受容体作動薬は2型糖尿病の治療薬として広く使用され、最近では肥満症を適応とする新薬も登場するなど注目を集めているが、以前から甲状腺がんリスクの存在が指摘されている。イタリア・University of FlorenceのGiovanni A. Silverii氏らは、GLP-1受容体作動薬投与と甲状腺がんリスクの関連を検討するため、ランダム化比較試験(RCT) 64件のシステマチックレビューおよびメタ解析を実施。その結果、GLP-1受容体作動薬が中等度のリスク上昇と関連していたとDiabetes Obes Metab2023年11月29日オンライン版)に報告した。

52週以上追跡した全RCTが対象

 GLP-1受容体作動薬に関しては、これまで複数の後ろ向き観察研究において甲状腺がんのリスク上昇が報告されている。今回、Silverii氏らはGLP-1受容体作動薬の使用と甲状腺がんとの関連性を明らかにするため、システマチックレビューおよびメタ解析を実施した。

 解析対象は、GLP-1受容体作動薬の有効性と安全性を18歳以上の患者においてプラセボまたは対照薬との比較により52週以上の追跡で検討した全RCTとした。MEDLINE、EMBASE、Clinicaltrials.gov、Cochrane CENTRAL Databaseで全てのGLP-1受容体作動薬の薬剤名をキーワードとして2023年8月20日までに収載されたRCTを検索した。

 主要評価項目は研究期間中の甲状腺がんの発生率、副次評価項目は甲状腺乳頭がん、甲状腺髄様がん、甲状腺濾胞がん、分化型甲状腺がん全体の発生率とした。

オッズ比1.5のリスク上昇

 対象となったRCTは64件で、GLP-1受容体作動薬投与群は4万6,228例、プラセボまたは対照薬群は3万8,399例だった。64件のうち、2型糖尿病に関するRCTは48件、肥満症は16件だった。使用されたGLP-1受容体作動薬は、リラグルチドが26件、セマグルチドが17件、エキセナチドが16件、デュラグルチドが9件で、対照薬はプラセボが36件、インスリンが12件、DPP-4阻害薬が6件、スルホニル尿素(SU)薬が4件、SGLT2阻害薬が3件、無治療が2件、治験責任医師が選択した治療薬が1件だった。

 追跡期間中央値は53週、年齢中央値は56歳、BMI中央値は32、女性の割合の中央値は50.3%だった。

 64件の研究のうち、26件(6万9,909例)で少なくとも1例の甲状腺がんの発生が報告された。特定された甲状腺がん86例(GLP-1受容体作動薬群60例、対照群26例)のうち、25例(同19例、6例)が甲状腺乳頭がん、3例(同2例、1例)が甲状腺髄様がん、残りは甲状腺悪性新生物またはがんとして報告された。

 固定効果解析の結果、GLP-1受容体作動薬の投与は甲状腺がんのリスク上昇と有意に関連しており〔Mantel-Haenszelオッズ比(MH-OR)1.52、95%CI 1.01〜2.29、P=0.04、I2=0%〕、脆弱性指数は1で、5年における害必要数は1,349だった。この関連は、104週以上追跡した研究のみを解析し場合も同様だった(同1.76、1.00〜3.12、P=0.05)。

 甲状腺乳頭がん(MH-OR 1.54、95%CI 0.77〜3.06、P=0.22)、甲状腺髄様がん(同1.44、0.23〜9.16、P=0.55)はいずれもGLP-1受容体作動薬との有意な関連は認められなかった。

 以上を踏まえ、Silverii氏は「臨床研究においてGLP-1受容体作動薬は甲状腺がんの相対リスクの中等度の上昇と関連していることが示され、これは最近の観察研究結果と同様であった。この知見の臨床的意味を評価するには、より長期の研究が必要である」と結論している。

開発中の外用PDE4阻害薬、アトピー性皮膚炎・尋常性乾癬に有望

 軽症~中等症アトピー性皮膚炎または尋常性乾癬患者において、開発中の外用PDE4阻害薬PF-07038124は、忍容性が良好で有効性に優れることが示された。米国・カリフォルニア大学サンディエゴ校のLawrence F. Eichenfield氏らが海外第IIa相無作為化二重盲検比較試験の結果を報告した。アトピー性皮膚炎および尋常性乾癬は、外用治療薬についてアンメットニーズが存在する。外用PF-07038124は、オキサボロール骨格を有するPDE4阻害薬で、T細胞ベースアッセイにおいて免疫調節活性が確認されており、IL-4およびIL-13に対する阻害活性を有している。JAMA Dermatology誌オンライン版2023年12月20日号掲載の報告。

 試験は2020年12月21日~2021年8月18日に、4ヵ国の34施設で行われた(データ解析は2021年12月15日まで)。対象は、軽症~中等症アトピー性皮膚炎(病変が体表面積の5~20%)または尋常性乾癬(体表面積の5~15%)を有する18~70歳の患者とした。対象患者を1対1の割合で、PF-07038124(0.01%外用軟膏)群または溶媒群に無作為に割り付け、1日1回6週間塗布した。

 主要エンドポイントは、アトピー性皮膚炎患者についてはEczema Area and Severity Index(EASI)総スコアのベースラインからの変化率、尋常性乾癬患者についてはPsoriasis Area and Severity Index(PASI)スコアのベースラインからの変化で、いずれも6週時点で評価した。安全性は、治療中に発現した有害事象や塗布部位の反応などを評価した。

 主な結果は以下のとおり。

・全体で104例が無作為化された(年齢[平均値±標準偏差]:43.0±15.4歳、女性:55例[52.9%]、アジア人:4例[3.8%]、黒人:13例[12.5%]、白人:87例[83.7%])。
・内訳は、アトピー性皮膚炎患者70例、尋常性乾癬患者34例であった。
・ベースラインの患者背景は、概してバランスが取れていた。
・6週時点において、PF-07038124群は溶媒群と比較して、EASI総スコアのベースラインからの変化率(最小二乗平均値:-74.9% vs.-35.5%、群間差:-39.4%[90%信頼区間[CI]:-58.8~-20.1]、p<0.001)が有意に改善した。
・同様に、PASIスコアのベースラインからの変化(-4.8 vs.0.1、群間差:-4.9[90%CI:-7.0~-2.8]、p<0.001)もPF-07038124群が有意に改善した。
・治療中に有害事象が発現した患者数は、アトピー性皮膚炎患者の治療群間(PF-07038124群9例[25.0%]vs.溶媒群9例[26.5%])、尋常性乾癬患者の治療群間(3例[17.6%]vs.6例[35.3%])のいずれも同等であった。
・PF-07038124の塗布部位反応は報告されなかった。

 

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

リンヴォック錠で日本リウマチ学会が注意喚起 全例市販後調査でニューモシスチス・イロベチイ肺炎および間質性肺炎の死亡例

 日本リウマチ学会はこのほど、関節リウマチ患者における「ウパダシチニブ」(販売名:リンヴォック錠)使用中のニューモシスチス肺炎PCP)および間質性肺炎(IP)発症に関して注意喚起する文書をホームページに掲載した。市販後全例調査により重篤有害事象および複数の死亡例に関する報告があったとし、適正使用の遵守を改めて呼びかけている。

 同調査(対象症例2732例)で、24週間の観察期間中に重篤有害事象として報告されたPCPは11例(0.40%)、IPは11例(0.40%)だった。さらに、登録のみに移行した2021年6月以降の自発報告では、23年8月15日時点でPCPを発現した症例は14例、IPを発現した症例は10例。そのうち、PCPによる死亡が5例、IPによる死亡が6例確認されたという。

 同学会は、「全例市販後調査のためのウパダシチニブ適正使用ガイド」でも触れられていたPCPおよびIPに関する注意事項を改めて周知するとともに、「必要に応じて予防療法を講じること」「疑わしい症状が出現した際は早期に精査を行うこと」としている。

食物アレルギーの経口免疫療法 「超微量」から食べると安全で効果的

食物アレルギーの原因になる食物を毎日少しずつ取ることで、食べられるようにする「経口免疫療法」。アナフィラキシーと呼ばれる重篤な副反応が起こる場合があるため、日本では一般診療として推奨されていないが、国立成育医療研究センターのチームが「安全で効果の高い方法」を開発した。専門誌に論文が発表された。

 食物アレルギーを発症するのは小さな子どもが多い。小学生になるまでに自然に治る人が多いが、なかなか治らなかったり、ごく微量でも激しい症状が出たりする人もおり、安全で有効な治療法が模索されていた。

 また、かつては原因となる食物を一切取らない「完全除去」しか対処法がなかったが、近年はその弊害が指摘されている。そこで、医師の指導の下、食物を繰り返し食べ、アレルギーを起こさない状態(免疫寛容)に持っていく経口免疫療法が注目されている。

 2021年に改定された食物アレルギー診療ガイドラインでは「完全除去の継続と比較すると有用」と明記された。一方でアナフィラキシーが起こるケースが後を絶たず、安全に実施できる方法が模索されていた。

 研究チームは、鶏卵または牛乳の食物アレルギーがあると診断された4~18歳の子ども217人を対象に、アレルギーを起こさずに食べられる最大の量(閾値(いきち))をもとに五つの方法を試し、治療経過を分析した。

 その結果、閾値の1万分の1(A群)、100分の1(B群)、10分の1(C群)から食べ始め、10分の1の量で維持した場合は、7~9割の人が食べられる量の閾値が上がったことが確認できた。副反応は1~3割が経験したが、いずれも口がかゆくなるなどの軽い症状で、アナフィラキシーはなかった。

■5つの方法の中で最も安全で効果的な方法は…

 中でもB群は副反応が14%と最も少なく、食べられる量が増えた割合は88%と最も多かった。治療前は、平均で全卵3グラムほど、牛乳は1ミリリットルほどしか取れなかったが、その2倍以上を取れるようになった。

 一方、閾値に近い量(D群)から食べ始め、量を増やしていく従来の方法だと、食べられる量が増えた人は5割超いたが、7割が副反応を経験し、15%はアナフィラキシーだった。完全除去(E群)では、食べられる量が増えた人は3割弱で、もともとの閾値より減った人も多かった。

 これらの結果から、「閾値の100分の1量で食べ始め、10分の1量で維持する方法が最も安全で効果が高い」と結論を出した。

 同センターの大矢幸弘アレルギーセンター長は「20年ほど研究し、やっと安全に行える方法を確認できた」と話す。

 経口免疫療法を行う際には、アトピー性皮膚炎やぜんそくなど、合併しているアレルギー疾患を十分にケアしながら行うことも大切だ。また、アレルギーの治療に精通した専門医がいる医療機関で、救急対応に十分配慮して行うことがのぞましいという。

https://onlinelibrary.wiley.com/doi/epdf/10.1111/cea.14400

 

胃酸抑制薬の長期使用が酒皶発症に関連 韓国・国民健康保険請求データの解析

 韓国・Kangwon National University HospitalのJi Hyun Kim氏らは、同国の国民健康保険サービス・全国サンプルコホート(NHIS-NSC)のデータを用い、胃酸抑制薬として広く用いられているプロトンポンプ阻害薬PPI)およびH2受容体拮抗薬(H2ブロッカー)と酒皶との関連を後ろ向きに検討。その結果、これらの胃酸抑制薬の使用期間が長くなるほど酒皶の発症と強く関連したとJ Korean Med Sci2023; 38: e402)に発表した。

1日規定量120日超の使用で酒皶のオッズ比1.55

 胃酸抑制薬を長期間使用すると、腸内pHの変化により腸内細菌叢が乱れる恐れがある。腸内細菌叢の乱れは小腸内細菌異常増殖症やClostridioides difficile感染症などの消化管疾患に関連することが知られており、最近の研究では炎症性皮膚疾患との関連も報告されている。

 Kim氏らは今回、NHIS-NSCの2001~13年のデータを用い、韓国人集団における胃酸抑制薬の使用と炎症性皮膚疾患である酒皶との関連を検討した。対象は、2003年以降に胃酸抑制薬(PPIまたはH2ブロッカー)を90日超にわたり処方された20歳以上の上部消化管疾患の患者。胃酸抑制薬の使用開始から1年超経過後に酒皶と診断された症例1例に対し、年齢、性、収入をマッチングした酒皶を発症していない対照4例を選出し、計3,460例(症例群692例、対照群2,768例)を解析に組み入れた。

 ロジスティック回帰分析の結果、胃酸抑制薬の1日規定量(DDD)の使用が30日未満の場合と比べ、30日以上120日以下で酒皶との関連が見られ〔オッズ比(OR)1.43、95%CI 1.19~1.72〕、120日超ではさらに強い関連が見られた(同1.68、1.32~2.13)。交絡因子の調整後も結果は同様で、30日以上120日以下(調整後OR 1.41、95%CI 1.17~1.71)および120日超(同1.55、1.20~2.00)の長期使用は酒皶と関連していた(全てP<0.001)。

農村部居住、併存疾患も有意な危険因子に

 その他の因子では、農村部居住(調整後OR 2.70、95%CI 2.26~3.22、P<0.001)、併存疾患のCharlson Comorbidity Index(CCI)スコア2以上(同1.57、1.21~2.04、P=0.001)が酒皶と有意に関連していた。前者については、農村部居住者は都市部居住者と比べ、酒皶の発症・悪化に関与するとされる日光曝露の頻度が高いことが原因であると考えられた。

 以上の結果から、Kim氏らは「消化管疾患を有する韓国人集団において、H2ブロッカーおよびPPIの使用は酒皶の発症に関連し、発症リスクは用量依存性に上昇することが示された。臨床医は胃酸抑制薬の長期使用に伴う酒皶のリスクに注意すべきである」と結論している。

 また、胃酸抑制薬の使用期間を1年未満に限定した解析でも同様の結果が認められたことから、同氏らは「胃酸抑制薬による腸内細菌叢の乱れは短期間のうちに引き起こされ、長期にわたり持続する可能性が示唆された」と付言している。

尋常性ざ瘡へのisotretinoin、自殺・精神疾患リスクと関連せず

 isotretinoinは、海外では重症の尋常性ざ瘡(にきび)に対して用いられており、本邦では未承認であるが自由診療での処方やインターネット販売で入手が可能である。isotretinoinは、尋常性ざ瘡に対する有効性が示されている一方、自殺やうつ病などさまざまな精神疾患との関連が報告されている。しかし、isotretinoinと精神疾患の関連について、文献によって相反する結果が報告されており、議論の的となっている。そこで、シンガポール国立大学のNicole Kye Wen Tan氏らは、両者の関連を明らかにすることを目的として、システマティック・レビューおよびメタ解析を実施した。その結果、住民レベルではisotretinoin使用と自殺などとの関連はみられず、治療2~4年時点の自殺企図のリスクを低下させる可能性が示された。JAMA Dermatology誌オンライン版2023年11月29日号掲載の報告。

 2023年1月24日までにPubMed、Embase、Web of Science、Scopusに登録された文献を検索し、isotretinoin使用者における自殺および精神疾患の絶対リスク、相対リスク、リスク因子を報告している無作為化試験および観察研究に関する文献を抽出した。関連データを逆分散加重メタ解析法により統合し、バイアスリスクはNewcastle-Ottawa Scaleを用いて評価した。メタ回帰分析を行い、不均一性はI2統計量で評価した。

 主要アウトカムは、isotretinoin使用者における自殺および精神疾患の絶対リスク(%)、相対リスク(リスク比[RR])、リスク因子であった。

 主な結果は以下のとおり。

・システマティック・レビューにより、合計25研究(162万5,891例)が特定され、そのうち24研究がメタ解析に含まれた。
・全25件が観察研究で、内訳は前向きコホート研究10件、後ろ向きコホート研究13件、ケースクロスオーバー研究1件、ケースコントロール研究1件であった。各研究の対象患者の平均年齢の範囲は16~38歳、男性の割合は0~100%であった。
・1年絶対リスクは、自殺既遂0.07%(95%信頼区間[CI]:0.02~0.31、I2=91%、対象:7研究8コホートの78万6,498例)、自殺企図0.14%(同:0.04~0.49、I2=99%、7研究88万5,925例)、自殺念慮0.47%(同:0.07~3.12、I2=100%、5研究52万773例)、自傷行為0.35%(同:0.29~0.42、I2=0%、2研究3万2,805例)であったのに対し、うつ病は3.83%(同:2.45~5.93、I2=77%、11研究8万485例)であった。
・isotretinoin使用者は、非使用者と比べて自殺企図のリスクが、治療2年時点(RR:0.92、95%CI:0.84~1.00、I2=0%)、3年時点(同:0.86、0.77~0.95、I2=0%)、4年時点(同:0.85、0.72~1.00、I2=23%)のいずれにおいても低い傾向がみられた(いずれも対象は2研究44万9,570例)。
・isotretinoin使用と全精神疾患との関連はみられなかった(RR:1.08、95%CI:0.99~1.19、I2=0%、対象:4研究5万9,247例)。
・試験レベルのメタ回帰分析において、高齢であるほどうつ病の1年絶対リスクが低い傾向にあった。一方、男性は自殺既遂の1年絶対リスクが高い傾向にあった。

 著者は、「今回の所見は心強いものだが、引き続き臨床医は統合的な精神皮膚科ケア(holistic psychodermatologic care)を実践し、isotretinoin治療中に精神的ストレスの徴候がみられないか観察する必要がある」とまとめている。

 

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

アトピー性皮膚炎に伴う「かゆみ」伝達に、感覚神経のSTAT3が関与 理研ほか、研究成果は、「Cell Reports」オンライン版に掲載

かゆみ誘導に重要なIL-31、受容体発現やシグナル伝達の仕組みは未解明だった

 理化学研究所理研)は11月29日、皮膚炎に伴うかゆみの伝達に、感覚神経における転写因子「STAT3」の活性化が重要な役割を果たしていることを発見したと発表した。この研究は、同研究所生命医科学研究センター 組織動態研究チームの髙橋苑子研究員、落合惣太郎基礎科学特別研究員(研究当時、現・客員研究員)、岡田峰陽チームリーダーらを中心とした共同研究グループによるもの。研究成果は、「Cell Reports」オンライン版に掲載されている。

 アトピー性皮膚炎などの炎症とかゆみに、免疫細胞などから分泌されるサイトカインが重要な役割を果たしていることが、近年明らかとなってきた。実際、IL-4やIL-13と呼ばれるサイトカインが作用する受容体に対する抗体や、サイトカインの受容体直下で働くJAKと呼ばれる細胞内シグナル伝達タンパク質に対する小分子阻害薬が、アトピー性皮膚炎の治療に海外や国内において広く用いられるようになった。別のサイトカインIL-31の受容体に対する抗体も、アトピー性皮膚炎などのかゆみを効果的に抑えることが示され、2022年にアトピー性皮膚炎のかゆみの治療における使用が世界に先駆けて国内で承認された。

 従来、サイトカインは、免疫細胞や上皮細胞などが発現する受容体に作用して働くことが知られていた。ところが近年になり、かゆみの誘導においては、感覚神経が発現する受容体に作用している可能性が注目されていた。特にIL-31の受容体は一部の感覚神経に特徴的に強く発現していることが明らかとなり、IL-31は感覚神経に直接作用してかゆみを誘導している可能性が指摘されていた。しかし、この仮説は実証されておらず、皮膚の角化細胞にIL-31が作用することで別のかゆみ誘導物質が産生されることにより、かゆみが誘導されるという報告もあった。このため、一部の感覚神経がIL-31受容体を発現するメカニズムや、IL-31受容体とJAKの下流でどのような分子が働くことでかゆみを誘導しているのかについては明らかにされていなかった。

 そこで研究グループは今回、IL-31の感覚神経と角化細胞のどちらへの作用が、かゆみを誘導しているかを明らかにし、IL-31受容体の発現メカニズムや、IL-31受容体下流のかゆみ誘導メカニズムを解明することを目指した。

IL-31が感覚神経に直接作用しかゆみを誘導、角化細胞は寄与しないことをマウスで確認

 まず、IL-31の感覚神経への直接作用がかゆみを誘導しているか否かを調べるため、感覚神経においてのみIL-31受容体の遺伝子が欠損するマウスを、遺伝子改変技術を用いて作製した。同マウスの後根神経節や皮膚を解析したところ、確かに感覚神経のIL-31受容体の発現は消失していた。IL-31受容体が欠損していないコントロールマウスにIL-31を皮下投与すると強い「引っかき行動」が引き起こされるが、感覚神経のIL-31受容体が欠損したマウスでは、IL-31投与による引っかき行動の増加が全く見られなかった。つまり、感覚神経のIL-31受容体がなくなったことでIL-31によるかゆみが消失したと考えられる。一方、角化細胞においてのみIL-31受容体の発現が欠損するマウスを作製し、同様の実験を行ったところ、IL-31投与による引っかき行動はコントロールマウスと同程度引き起こされた。

 以上の結果から、IL-31は感覚神経に直接作用し、かゆみを誘導していることが初めて実証された。一方、IL-31の角化細胞への作用は少なくとも皮膚炎が起きていないマウスにおいては、かゆみ誘導にほとんど寄与していないことが示唆された。

IL-31<感覚神経のIL-31受容体<JAK<STAT3<かゆみ誘導

 次に、感覚神経のIL-31受容体とJAKの下流で、どのような分子がかゆみ誘導に関わっているかを調べた。多くの場合、サイトカインシグナルにおいては、JAKによって、STATファミリーと呼ばれるタンパク質が活性化され、細胞核の中へと移行し、遺伝子発現を促す転写因子として働くことが知られている。研究グループは、感覚神経においてはSTATファミリーの中でSTAT3が多く発現していることを見出した。しかし、STAT3の活性化はIL-31によるかゆみ誘導には必須ではないことが報告されていた。その報告では、全身でSTAT3の活性化がある程度減弱するとされる遺伝子改変マウスを用いて、IL-31投与時のかゆみが減弱しないことを根拠としていた。

 そこで、STAT3の活性を感覚神経においてのみ欠損させたマウスを新たに作製。同マウスにIL-31を皮下投与すると、IL-31が引き起こす引っかき行動は全く観察されなかった。つまり、感覚神経のSTAT3は、IL-31によるかゆみ誘導に必須であることが判明した。

 研究グループは、感覚神経のSTAT3が、IL-31受容体下流のかゆみ誘導シグナル伝達に関わっている可能性を考えた。そこで、STAT3欠損により感覚神経のかゆみ関連分子の発現が変化していないかを調べたところ、IL-31受容体の発現が減弱しているという結果を得た。加えて、かゆみ伝達に関わるという報告のある神経ペプチドの遺伝子の発現も低下していた。それら以外のかゆみ関連分子の発現低下は、調べた限りでは認められなかった。つまり、一部の感覚神経がIL-31受容体を発現するメカニズムに、STAT3が深く関わっていることが明らかになった。

 このように、遺伝子改変によって感覚神経のSTAT3をマウスの発生途中から欠損させてしまうと、IL-31受容体の発現を低下させることがわかった。しかし、感覚神経のSTAT3が、IL-31受容体下流のかゆみ誘導シグナル伝達に関わっているか否かは解析できなかった。そこで、STAT3活性化に対する小分子阻害剤を野生型マウスに投与することが、IL-31が誘導するかゆみに影響するのか調べた。

 その結果、阻害剤投与により、IL-31による感覚神経のSTAT3活性化が減弱し、IL-31が惹起する引っかき行動が、消失はしないものの有意に減弱した。一方、阻害剤投与によるIL-31受容体の発現低下は確認されなかった。以上より、STAT3はIL-31受容体下流のかゆみ誘導シグナル伝達に関わっていることが示唆された。

STAT3は、IL-31が誘導する以外のかゆみにも重要な役割を果たす

 研究グループは、皮膚炎が起きていないマウスにIL-31を投与したときのかゆみだけでなく、皮膚炎が起こっている状態のマウスのかゆみについても解析を行った。アトピー性皮膚炎に似た2型炎症を起こす皮膚炎モデルを、角化細胞においてのみIL-31受容体を欠損させたマウスに適用したところ、皮膚炎に伴う引っかき行動は、コントロールマウスと同程度観察され、この皮膚炎モデルにおいても、角化細胞のIL-31受容体の重要性は確認できなかった。

 しかし、感覚神経においてのみIL-31受容体を欠損させたマウスに適用したところ、皮膚炎に伴う引っかき行動が減弱することが判明。この減弱は有意ではあるものの、引っかき行動はまだ残っていた。よって、この皮膚炎モデルにおけるかゆみ誘導においても、感覚神経のIL-31受容体の関与が認められたものの、感覚神経のIL-31受容体が関与しないかゆみも存在することが示唆された。一方、感覚神経においてのみSTAT3を欠損させたマウスに、この皮膚炎モデルを適用したところ、引っかき行動が強く抑制されていた。このことから、感覚神経のSTAT3は、皮膚炎においてIL-31が誘導するかゆみだけでなく、他のかゆみにも重要な役割を果たしていることが示唆された。

STAT3の小分子阻害薬開発の必要性が示唆される結果に

 今回の研究により、IL-31が感覚神経に直接作用してかゆみを誘導していることが実証された。同結果から、アトピー性皮膚炎における「IL-31受容体に対する抗体療法」の有効性と安全性を高めるための戦略を、より理論的に考えられるようになると思われる。例えば、現状のような抗体の全身投与ではなく、感覚神経の細胞体が存在する神経節へ抗体を効率的に送達することができるようになれば、より少ない投与量でかゆみを抑えられる可能性がある。

 また、感覚神経のSTAT3が炎症性のかゆみに重要な役割を持つことが示されたことにより、STAT3の小分子阻害薬のさらなる開発の必要性が示唆された。今回マウスに用いた小分子阻害剤は、生体内における効果の程度と持続時間に改善の余地があるが、ヒトにおいてSTAT3を特異的・持続的に阻害する効果の高い小分子阻害薬が開発されれば、サイトカイン受容体に対する抗体と比べ、より多くの症例に有効で、かつ比較的安価な治療が可能となる。

 「STAT3上流のJAKに対する小分子阻害薬は多くの症例で効果があり、抗体と比べて安価な治療薬だ。一方で、免疫に大きく影響してしまうなどの副作用の懸念がある。STAT3阻害にも副作用の懸念は存在するが、JAKの下流で働く多くのシグナル伝達経路の一部のみを阻害するため、JAK阻害に比べて副作用が低減する可能性がある」と、研究グループは述べている。