デルマニアのブログ

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毛髪を生み出すオルガノイド作成に成功――白髪や脱毛症の治療に期待 マウスで生え変わりが1年続くことを確認

生体外でも毛髪を生み出せる毛包オルガノイド(ミニ臓器)の作成に成功したとする論文が、「Science Advances」に10月21日掲載された。「ヘアフォリクロイド」と名付けられたこの毛包オルガノイドをマウスに移植すると、毛包が生着して毛髪が生え変わることも確認されたという。横浜国立大学大学院工学研究院の福田淳二氏らの研究によるもの。研究グループでは、白髪や脱毛症の治療薬の開発、毛髪再生医療への応用が期待されるとしている。

 身体を構成する臓器や組織は、異なる種類の細胞からなる複雑な構造を持っていて、その発生過程では上皮系細胞と間葉系細胞の相互作用が重要。ただし、研究のために生体から分離した上皮系細胞と間葉系細胞を試験管内で培養しても、目的とする細胞への分化に必要な相互作用が起こらずに、目指す臓器や組織にはならない。毛根を包んでいる「毛包」についても、この2種類の細胞を用いたオルガノイドの作成が試みられてきているが、成熟した毛包の形成は成功していなかった。

 それに対して今回の研究では、マウスの上皮系細胞と間葉系細胞から、培養初期に形成する凝集体の空間配置パターンを制御することで、成熟した毛包を再生することに成功。毛包がほぼ100%の効率で再生することが確認された。この毛包オルガノイド(ヘアフォリクロイド)には、生体の毛包に含まれる主要な細胞(毛乳頭細胞や毛包上皮幹細胞、色素細胞など)の存在が観察された。また、再生した毛髪の表面はウロコ状の「キューティクル構造」と呼ばれる、髪の毛の水分を内側から逃がしにくい構造になっていた。

 このヘアフォリクロイドを、マウス胎児皮膚から採取した上皮系細胞と間葉系細胞を添加した培地で培養したところ、毛幹(皮膚表面に露出している毛の部分)が伸長して23日で約3mmに至った。さらに、ヌードマウス(免疫不全マウス)に移植した場合、3週間後に毛幹が伸長し、かつ同じ場所で約1年間にわたって生え変わることが確認された。このほか、毛球部(毛の根元の球状に膨らんだ部分)の詳しい観察から、薬剤を用いた場合に毛幹の色が濃くなる様子が見られた。これらの研究結果は、ヘアフォリクロイドを毛髪再生医療に利用したり、白髪の治療薬を探索するためのスクリーニングツールとして利用したりすることが可能であることを示唆している。

 著者らは、この研究の今後の展開として、「開発したヘアフォリクロイドを生命現象理解や創薬再生医療に応用していくための最適化実験を進めていく予定。ヒト細胞でのヘアフォリクロイドの開発は、毛髪疾患における新たな薬剤の創出に貢献し、髪の毛の増加を可能とする毛髪再生医療の実現につながると考えている」と、大学発のリリースの中で述べている。

 

https://www.science.org/doi/10.1126/sciadv.add4603