本論文に着目した理由
鼻科領域の慢性炎症性疾患の代表として、アレルギー性鼻炎と慢性副鼻腔炎が挙げられる。アレルギー性鼻炎はIgE抗体産生に基づくI型アレルギー疾患であり、抗IgE抗体薬であるオマリズマブが、既存治療でもコントロールができない季節性アレルギー性鼻炎(スギ花粉症)に対して保険適用されている(J Allergy Clin Immunol Pract 2021: 9: 2702-2714)。
また、慢性副鼻腔炎においては、SINUS-24およびSINUS-52試験を経て、IL-4/13受容体モノクローナル抗体であるデュピルマブが、既存治療に抵抗性の鼻茸を有する慢性副鼻腔炎に対して保険適用されている(Lancet 2019: 394: 1638-1650)。
今回、デュピルマブのアレルギー性鼻炎に対する効果が報告されたので紹介する。
私の見解
2型炎症(Th2細胞による炎症)に対する治療薬であるデュピルマブに関しては、鼻茸の縮小や鼻汁減少、嗅覚改善などの効果が報告されている。アレルギー性鼻炎においても、抗IL-4により、B細胞のクラススイッチが抑制されることによってIgE産生が阻害され、アレルギー性鼻炎の症状を改善することが期待される。実際に、デュピルマブ投与前後で、血清IgE値が低下することが報告されている。
今回紹介する論文は、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)過敏喘息に対する研究に参加していたアレルギー性鼻炎患者16例に関する報告で、経鼻ステロイド治療が施行されている患者を対象としたものである。全例が血清抗原特異的IgEが1つ以上陽性の患者であった。それらの対象患者に対して、デュピルマブ投与前と投与6カ月後の血清および鼻腔分泌液中(nMLF)の抗原特異的IgEの変化を見ている。
その結果、デュピルマブ投与6カ月後の総IgEは、投与前と比較して、血清およびnMLFの両方で有意な減少が認められた。また、大多数の患者で抗原特異的IgE値の低下も観察されており、特に血清よりもnMLFで顕著であった。さらに、16例中3例では、投与前に陽性であった抗原特異的IgE値が投与後には検出感度以下にまで低下したことも認められた。
そのほか、季節性アレルゲンのみならず、通年性アレルゲンに対する抗原特異的IgEの低下も認められており、アレルゲン飛散時期などの曝露期間にかかわらずIgEの低下が見られることが示された。また、血清のみならず、鼻汁においてもIgEを低下させる効果があることが示唆されており、抗IL-4/13治療により、アレルギー性鼻炎の症状改善につながることが期待される。
日常臨床への生かし方
本報告は16例の検討であり、サンプル数が少ないことと、欧州からの報告であるため、本邦の季節性アレルギー性鼻炎の代表格であるスギやヒノキ花粉ではなく、シラカバやイネ花粉に対しての報告であることに注意が必要である。
また、鼻茸を有する慢性副鼻腔炎患者に対してデュピルマブを投与した場合のアレルギー性鼻炎への効果を示したものであり、コントロール群が設定されていなかった。さらに、慢性副鼻腔炎とアレルギー性鼻炎は同様の症状を来す部分もあり、デュピルマブによるアレルギー性鼻炎の症状改善効果を捉えづらいといった問題点がある。
しかし、本邦で国民病とされるアレルギー性鼻炎は、鼻茸を有する慢性副鼻腔炎に合併している可能性が高く、デュピルマブ投与により、副次的にアレルギー性鼻炎に対しても効果が期待される。このような点は、鼻症状を有する患者、特にデュピルマブ投与前には副鼻腔炎の鼻症状に加えて、花粉症シーズンに増悪を来していた患者にとって福音だと考える。
今回の結果は、単にアレルギー性鼻炎に対するデュピルマブの使用を支持するものではないが、アレルギー性鼻炎に対する同薬の潜在的な役割を示唆するものである。そのため、デュピルマブの投与が必要な慢性副鼻腔炎患者にとって、通年性および季節性のアレルギー性鼻炎に対する投薬を減らすことができる可能性があると思われる。