デルマニアのブログ

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とある皮膚科医のブログです。

DPP-4による類天疱瘡の関連新遺伝子発見

 DPP-4阻害薬は2型糖尿病治療薬として広く用いられているが、水疱性類天疱瘡を発症するケースが知られている。北海道大学大学院皮膚科学教室教授の氏家英之氏らの研究グループは、全ゲノム上の一塩基多型(SNP)を対象にゲノムワイド関連解析を実施。DPP-4阻害薬による水疱性類天疱瘡の発症に関連するヒト白血球抗原(HLA)遺伝子領域の変異を新たに発見したと、J Invest Dermatol (2023年5月6日オンライン版)に報告した。

ゲノムワイド関連解析で網羅的に比較

 水疱性類天疱瘡は、皮膚に存在する17型コラーゲン(BP180蛋白質)やBP230蛋白質に対する自己抗体によって全身の皮膚や粘膜に水疱、びらん、紅斑が生じる厚生労働省指定難病の1つで、非炎症型と炎症型に分けられる。研究グループはこれまで、DPP-4阻害薬の服用による水疱性類天疱瘡は非炎症型が多いこと、特定のHLA遺伝子(HLA-DQB1*03:01)の保有率が高いことを報告している(関連記事「糖尿病薬と皮膚難病に関連する遺伝子を発見」)。今回は新たな発症危険因子の同定を目的に、DPP-4阻害薬服用による水疱性類天疱瘡患者30例(非炎症型21例、炎症型9例)から採取したDNAを用いて、全ゲノム上のSNPを対象としたゲノムワイド関連解析を実施。また、DPP-4阻害薬非服用の水疱性類天疱瘡患者60例も同様に解析、一般人738例のゲノムデータと比較した。

非炎症型水疱性類天疱瘡発症例の8割がHLA-DQA1*05保有

 解析の結果、DPP-4阻害薬による非炎症型水疱性類天疱瘡群では、6番染色体上のHLAを含む領域に特異的なシグナルが見られた(P<5×10−8図1)。

図1. ゲノムワイド関連解析の結果

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 そこで詳細に解析したところ、非炎症型水疱性類天疱瘡群ではHLA-DQA1*05保有率が高頻度であり、既報のHLA-DQB1*03:01より非炎症型類天疱瘡の発症に強く関連していた()。

表. HLA-DQA1*05およびHLA-DQB1*03:01保有率、非炎症型水疱性類天疱瘡のリスク

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 HLA-DQ分⼦はDQB1遺伝⼦がコードしているβ鎖およびDQA1遺伝⼦がコードしているα鎖のダイマーであり、両者の間には体内の免疫反応に関与する抗原ペプチドと結合する間隙が存在する(図2-左)。DQB1*03:01に特徴的な45番⽬のアミノ酸変異ならびにDQA1*05に特徴的な6カ所のアミノ酸変異のうち5カ所は、抗原ペプチド結合部位の外側に位置している。それに対し、HLA-DQA1の75番⽬のセリン(Ser75)はペプチド結合部位の内側に位置している(図2-右)。

図2. HLA-DQ分子上のアミノ酸変異の位置

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(図1、表、図2とも北海道大学プレスリリースより)

 このことから、研究グループは「HLA-DQA1の変異がDPP-4阻害薬による⾮炎症型⽔疱性類天疱瘡の発症リスクに機能的に関係していることが推測される」と考察。「HLA-DQA1*05は、DPP-4阻害薬服⽤中の⽔疱性類天疱瘡の発症リスクを予測する疾患バイオマーカーになりうる」と述べている。