デルマニアのブログ

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治療標的としてのTYK2は有効? 中国・メンデルランダム化解析とシステマチックレビュー

 中国・Zhejiang University School of MedicineのShuai Yuan氏らは、治療標的としてのチロシンキナーゼ(TYK)2の有用性をメンデルランダム化(MR)解析や臨床試験のシステマチックレビューで探索、その成果をEBioMedicine2023; 89: 104488)に報告した。

阻害による影響を機能喪失バリアントの代用で評価

 ヤヌスキナーゼ(JAK)ファミリー分子の1つであるTYK2は、さまざまな炎症性疾患の治療標的として期待されており、日本でもTYK2阻害薬デュークラバシチニブが乾癬治療薬として承認されている。しかし、乾癬以外の自己免疫疾患に対する臨床試験は少なく、自己免疫疾患に対するTYK2阻害の有効性を評価するデータは少ない。

 JAK阻害薬に関しては、重篤な心血管イベントやがんリスク上昇との関連を示唆する報告もあり、安全性上の懸念となっている。現時点で、TYK2阻害薬の有害事象を詳しく探索した研究も存在しない。

 そこでYuan氏らは今回、TYK2遺伝子の機能喪失(loss-of-function)ミスセンス変異であるrs34536443をTYK2阻害の代用(proxy)として用いたMR解析を実施。TYK2阻害薬の他疾患への転用機会や有害事象、バイオマーカーの同定を試みた。さらに、文献検索による臨床試験データのシステマチックレビューを実施した。

PheWASでTYK2阻害と関連する11疾患を特定

 Yuan氏らはまず、英国のUK Biobankのデータ(白人33万9,197人)を基に、フェコード(PheCODE)を用いて1473種類のフェノタイプを定義。フェノムワイド関連解析 (PheWAS)により、TYK2の機能喪失変異と有意に関連する16の転帰(疾患)を同定した。

 そのうち11疾患との関連が、フィンランドのFinnGen Biobank(26万405人)のデータを用いたMR解析で再現された。rs34536443のマイナーアレルの増加は、関節リウマチ〔オッズ比(OR) 0.73、95%CI 0.66~0.81、P<0.001〕、1型糖尿病(同 0.77、0.69~0.87、P<0.001)、乾癬(同 0.79、0.7~0.88、P<0.001)、甲状腺機能低下症(同 0.83、0.77~0.89、P<0.001)、潰瘍性大腸炎(同 0.83、0.74~0.94、P=0.003)、炎症性腸疾患(同 0.84、0.76~0.94、P=0.001)、全身性結合組織障害(同 0.86、0.78~0.95、P=0.004)などの発症リスク低下と有意に関連することが確認された。一方、膀胱炎、慢性腎臓病、足の先天異常との関連は見られなかった。

病巣組織との関連では一貫した結果は示されず

 次に、Yuan氏らはTYK2遺伝子の組織特異的発現の解析を行い、TYK2発現が複数の疾患の病巣組織に関連することを明らかにした。特に、甲状腺甲状腺機能低下症患者)や皮膚(乾癬および関連疾患の患者)では、TYK2発現の低下と疾患の発症リスク低下との間に相関が見られた。

 多重比較の補正を行った後、TYK2の遺伝子代用阻害(genetically proxied TYK2 inhibition)と多くのがん種との間に有意な関連は認められなかったが、前立腺がん、男性の生殖器がん、乳がんとrs34536443との間に正の相関が示唆された。

 組織特異的発現解析では、乳房組織におけるTYK2発現の低下と乳がんリスクの上昇との関連が示されたが(OR 1.21、95%CI 1.02~1.43)、前立腺組織や男性生殖器の組織では、そのような関連は示されなかった。

 共局在化分析ではTYK2発現と前立腺がん、乳がんとの関連はどの組織においても観察されなかった〔事後確率(PP)<50%〕。

 さらに同氏らは、TYK2機能と無症状のエンドフェノタイプ(疾患関連バイオマーカー)との関連を調べるため、rs34536443と247種のバイオマーカーとの関連を探索した。多重検定の補正を行った後、44種のバイオマーカーが残り、そのうち37種は血液免疫細胞、血液学的形質、血漿や尿の生化学パラメータなどに属するものであった。

 rs34536443のマイナーアレルの増加は、リウマトイド因子の下方制御、リンパ球数の上方制御と関連した。

がんリスクは長期フォローアップ試験での評価が必要

 以上の解析結果を補強するため、Yuan氏らは、MEDLINE、EMBASE、ClinicalTrials.govを用いて文献検索を実施。2022年3月までに公表された、TYK2阻害薬に関する研究65報を同定し、動物実験やランダム化比較試験(RCT)以外の試験を除外した結果、最終的に21報を解析対象とした。

 RCTの内訳は、尋常性乾癬に対するTYK阻害薬の効果を検討したものが最も多く(7報)、潰瘍性大腸炎円形脱毛症、全身性エリテマトーデス(SLE)、アトピー性皮膚炎、尋常性白斑(非分節型)を対象とした試験もあった。

 尋常性乾癬に対しては、全7報で対照群と比べ介入群でPsoriasis Area Severity Index(PASI)スコアの改善が見られた。乾癬性関節炎、円形脱毛症、アトピー性皮膚炎、活動性尋常性白斑(非分節型)に対する有効性を報告している試験もあったが、報告数はそれぞれ1、2、1、1報のみだった。

 有害事象としては頭痛、上気道感染、悪心、下痢、クレアチニンや肝酵素の上昇の報告が多かった。有害事象の可能性にがんを挙げている報告が2報あった。

 以上を踏まえた結論として同氏らは「さまざまな解析アプローチを用いた研究の結果、TYK2の遺伝子代用阻害は、乾癬およびその関連疾患のリスク低下と関係することが確認され、RCTの結果でもおおむね支持された。TYK2と他の自己免疫疾患(甲状機能低下症、SLE、関節リウマチなど)に関連した観察知見は、今後の臨床試験のデザイン設定に役立つであろう。前立腺がんや乳がんリスク上昇の可能性については、長期の追跡試験で評価すべきである」と結んでいる。