デルマニアのブログ

デルマニアのブログ

とある皮膚科医のブログです。

医療従事者への4回目接種は有効か 岩田健太郎

研究の背景:波紋を呼ぶ「4回目接種効果なし」の報告

 どうも、「4回目のワクチンは医療従事者には効かない」という意見を散見する。

根拠となっているのはNEJMに出たレターである。イスラエルからの報告で、ファイザーとモデルナのmRNAワクチン4回目の免疫原性と安全性そして効果が吟味された。1,050人の医療従事者のうち、154人が4回目接種を受けた。どちらのワクチンも接種後に血中中和抗体の上昇が認められたが、3回接種群では時間経過とともに中和抗体価の減衰が認められた。観察期間は1カ月程度だが、ポワソン回帰モデルを用いると、3回接種群で25%、ファイザー4回目で18.3%、モデルナで20.7%に感染が認められた。ここから算出されたワクチン効果は30%で、統計的有意差は得られなかった。ただし、有症状の感染に対する効果はより高かった(ファイザーで43%、モデルナで31%)。

Regev-Yochay G, Gonen T, Gilboa M, Mandelboim M, Indenbaum V, Amit S, et al. Efficacy of a Fourth Dose of Covid-19 mRNA Vaccine against Omicron. New England Journal of Medicine. 2022 Apr 7;386(14):1377-80.

 しかし、この研究は非常に規模が小さくて、両群の差を吟味するには不十分だ。さらに、両群はランダム化されていないのだが、登録期間にずれがあり、これもまたバイアスの根拠となっている。よって、この研究をもって「医療従事者に4回目ワクチンは無意味」という結論をつけることはできない。

 そこで今回紹介するのは、より大きな規模で医療従事者への4回目ワクチンの効果を吟味したスタディーである。やはりイスラエルからのもので、プレプリントだ。

Cohen MJ, Oster Y, Moses AE, Spitzer A, Benenson S, Group the I hospitals 4th vaccine W. Effectiveness of the BNT162b vaccine fourth dose in reducing SARS-CoV-2 infection among healthcare workers in Israel, a multi-center cohort study [Internet]. medRxiv; 2022 [cited 2022 Jul 28]. p. 2022.04.11.22273327.

研究の概要:より大規模な研究で感染の半減を確認

 イスラエルでは、ファイザーのmRNAワクチンの3回目ブースターを2021年9月までに提供し、成人の90%が接種を受けた(医療従事者は95%以上)。さらに同年12月30日より、イスラエル保健省は60歳以上、免疫抑制者そして医療従事者に4回目のワクチンを推奨し始めた。ただし、4回目接種を受けるか否かは個々の判断に委ねられた。提供は2022年1月2日より開始された。3回目から4、5カ月後、ということになる。

 本研究は、4回目接種を受けて6日以上経過した者と、3回接種だけの者の感染率を比較したものである。イスラエルでは個々のワクチン接種データと病院の臨床データを突合できるので、ワクチン接種歴に応じた感染率の算出が可能なのだ。今回の研究では、11病院(イスラエルにおける急性期病院の約半数に相当する)の医療従事者に関するデータを検討した。除外基準としては、2022年1月までにCOVID-19に罹患していないことが条件となった。診断はPCRで行われた。

 2021年8月から9月にかけて3回目のワクチン接種を受けた医療者(HCW)は29,612人だった。そのうち5,331人(18%)が2022年1月に4回目のワクチン接種を受け、かつ接種後1週間COVIDの発症がなかった。男性、年齢の高い人が4回目の接種を受けやすい傾向にあった。

 感染率は、4回接種群で368/5,331(6.9%)、3回接種群では4,802/24,280(19.8%)であった。割合の比を見たRate ratio(RR)は0.35(0.32〜0.39)であり、病院、性別、年齢層、職業でマッチした場合のRRは0.61(0.54〜0.71)だった。Cox回帰モデルを用いた調整ハザード比は0.56(0.50〜0.63)だった。両群に重症例や死亡例は出ていない。コホートの未調整なカプランマイヤー・カーブが文献図Aに、マッチされたコホートでのKMカーブは図Bに示されている。

臨床現場での考え方:不明点は多いが4回目を躊躇する根拠は乏しい

 このコホート研究は2022年1月のデータを見ている。南アフリカ共和国でオミクロンのBA.4とBA.5が流行しだしたのが2022年2〜3月なので、こうした変異株については検討されていないと考えるべきだろう。

Haseltine WA. New Members Of The Omicron Family Of Viruses: BA.2.12.1, BA.4, And BA.5 [Internet]. Forbes. [cited 2022 Jul 28].

 また、4回目ワクチンの長期的なデータについても本研究では分からない。さらに、ワクチン接種するかどうかは個人の決断に委ねられているため、ワクチン接種者がより感染回避の行動をとっていたとか、より健康だった(かも)といったバイアスの存在の可能性は否めない。

 とはいえ、KMカーブで一貫して感染リスクが低いことを考えると、医療従事者に対する4回目のワクチンは感染そのものを半減させる可能性がある、とはいえそうだ(ただし、BA.5とか、これから出てくるかもしれないBA.2.75などについては未知なままだ)

 ちなみに、長期療養施設入所者を対象とした4回目ワクチンの評価についてはカナダのオンタリオで行われた研究がある。ワクチン評価でよく行われるtest negative studyだが、感染防止には19%の効果、有症状の感染防止には31%、重症化については40%の防止効果が認められた。

Grewal R, Kitchen SA, Nguyen L, Buchan SA, Wilson SE, Costa AP, et al. Effectiveness of a fourth dose of covid-19 mRNA vaccine against the omicron variant among long term care residents in Ontario, Canada: test negative design study. BMJ. 2022 Jul 6;378:e071502.

 一方、オミクロンに特化したワクチンについては複数のメーカーが開発しているが、臨床試験で確定した効果や安全性についてはまだ未知なままだ。

Fang Z, Peng L, Filler R, Suzuki K, McNamara A, Lin Q, et al. Omicron-specific mRNA vaccination alone and as a heterologous booster against SARS-CoV-2. Nat Commun. 2022 Jun 6;13(1):3250.

 ちなみに、BA.4やBA.5感染に対するプロテクションとしては過去の感染、とりわけオミクロンによる感染が有効だったという、これまたプレプリントの報告があり、Natureでも紹介されていた。カタールからの報告である。ただ、オミクロン感染のほうが非オミクロン感染よりも最近の感染なわけで、当然といえば当然かもしれない。同じ根拠で、過去のオミクロン感染が長期に渡ってBA.5など他の変異株からの感染を防御してくれるのか、いつまで防御してくれるのか、については謎のままだ。

Altarawneh HN, Chemaitelly H, Ayoub HH, Hasan MR, Coyle P, Yassine HM, et al. Protection of SARS-CoV-2 natural in fection against reinfection with the Omicron BA.4 or BA.5 subvariants [Internet]. medRxiv; 2022 [cited 2022 Jul 28]. p.2022.07.11.22277448.

Prillaman M. Prior Omicron infection protects against BA.4 and BA.5 variantsNature [Internet]. 2022 Jul 21 [cited 2022 Jul 28]

 本稿を執筆しているのは7月28日だが、ぼくは8月4日に4回目のワクチン接種を受ける予定だ。これまでの3回はファイザーで、今回はモデルナだ。3回ファイザー、3回目モデルナがどのような利益とリスクを発生させるのかは未知の領域だが、これまでの知見でmRNAワクチンの安全性はかなり吟味されてきたので、ワクチン接種そのものを躊躇する根拠は乏しいと考えている。なんとか、感染無しで第7波を逃げ切れるとよいと思っているのだが、極めて感染力の強いBA.5に対して「これをやれば感染しない」という単純なシングルアンサーはない。

 果たして逃げ切れるかどうか。