アトピー性皮膚炎(AD)患者、とくにJAK阻害薬による治療を受ける患者は、静脈血栓塞栓症(VTE)のリスクが高くなるなのか。これまで明らかになっていなかったこの懸念について、台湾・台北栄民総医院のTai-Li Chen氏らがシステマティック・レビューとメタ解析を行い、現状で入手可能なエビデンスで、ADあるいはJAK阻害薬とVTEリスク増大の関連を示すものはないことを明らかにした。著者は、「今回の解析結果は、臨床医がAD患者にJAK阻害薬を処方する際の参考となるだろう」としている。JAMA Dermatology誌オンライン版2022年8月24日号掲載の報告。
研究グループは、ADとVTE発生の関連を調べ、JAK阻害薬治療を受けるAD患者におけるVTE発生リスクを評価した。
MEDLINE、Embase、Cochrane Library、Web of Scienceのデータベースを、それぞれ創刊から2022年2月5日まで、言語や地理的制限を設けずに検索。ADとVTEの関連を調べたコホート試験、JAK阻害薬治療を受けるAD患者におけるVTEイベントを報告していた無作為化比較試験(RCT)を適格とした。最初に検索した論文の約0.7%が適格基準を満たした。
データは、Preferred Reporting Items for Systematic Reviews and Meta-Analyses(PRISMA)ガイドラインに準拠して抽出・包含し、包含したコホート試験とRCTのバイアスリスクは、Newcastle-Ottawa ScaleおよびCochrane Risk of Bias Tool 2で評価。ランダム効果モデル解析で、VTE発生の統合ハザード比(HR)およびリスク差を算出し、評価した。
主要評価項目は、VTE発生とADのHR、およびJAK阻害薬治療を受けるAD患者とプラセボまたはデュピルマブ治療を受けるAD患者のVTE発生のリスク差であった。
主な結果は以下のとおり。
・コホート試験2件とRCT 15件の被験者46万6,993例が包含された。
・メタ解析では、ADとVTE発生の有意な関連は認められなかった(HR:0.95、95%信頼区間[CI]:0.62~1.45、VTE発生率:0.23イベント/100患者年)。
・全体では、JAK阻害薬治療を受けるAD患者におけるVTE発症者は0.05%(5,722例中3例)であったのに対して、プラセボまたはデュピルマブ治療を受けるAD患者のVTE発症者は0.03%(3,065例中1例)であった(Mantel-Haenszel検定によるリスク差:0[95%CI:0~0])。
・VTE発生率は、JAK阻害薬を受けるAD患者で0.15イベント/100患者年、プラセボを受けるAD患者では0.12イベント/100患者年であった。
・これらの解析所見は、4種のJAK阻害薬(アブロシチニブ、バリシチニブ、ウパダシチニブ、SHR0302)においても同様だった。