BBJ登録のアトピー性皮膚炎患者1,344人を対象に、発症年齢との遺伝的関連を解析
理化学研究所は11月21日、2021年に発表したアトピー性皮膚炎を対象にした最大規模のゲノムワイド関連解析(GWAS)の結果を用いて、日本人のアトピー性皮膚炎の発症年齢の遺伝基盤を解明したと発表した。この研究は、同大研究所生命医科学研究センターゲノム解析応用研究チームの寺尾知可史チームリーダー(静岡県立総合病院臨床研究部免疫研究部長、静岡県立大学薬学部ゲノム病態解析講座特任教授)、ファーマコゲノミクス研究チームの曳野圭子特別研究員、莚田泰誠チームリーダー、東京大学大学院新領域創成科学研究科メディカル情報生命専攻複雑形質ゲノム解析分野の小井土大助教(理研生命医科学研究センターゲノム解析応用研究チーム客員研究員)らの研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of Investigative Dermatology」に掲載されている。
発症年齢によるアトピー性皮膚炎の症状の違いは報告されているが、その原因はわかっていない。また、発症年齢に対する遺伝的関与はさまざまな疾患で研究されているが、アレルギー疾患ではほとんど例がなく、とりわけアトピー性皮膚炎においては、主にヨーロッパの集団を対象とした限られた既報があるのみだった。そのため、アジア人集団において、全ゲノムレベルで発症年齢の遺伝基盤を解明することが求められていた。
今回研究グループは、2021年に報告した、バイオバンク・ジャパン(BBJ)に登録されているアトピー性皮膚炎患者約2,600人のデータを用いて行った大規模なゲノムワイド関連解析(GWAS)の結果を活用し、発症年齢の基盤となる遺伝子構造を調べた。具体的には、2021年、アトピー性皮膚炎患者に特徴的な遺伝的変異を網羅的に検出するために、BBJ登録者の中のアトピー性皮膚炎患者群2,597人と対照群11万504人(合計11万3,101人)を対象に、非ヨーロッパ人集団としては最大規模となるGWASを行い、17の疾患感受性領域を報告。今回の研究ではさらに、発症年齢情報を持つアトピー性皮膚炎患者1,344人を対象に、発症年齢との遺伝的関連を調べた。
NLRP10遺伝子リスクアレル有り、発症年齢約3年早まる
最初に、GWASでゲノムワイド有意水準(p<5.0×10-8)を満たす、17のアトピー性皮膚炎感受性領域と発症年齢の関連を調べた。その結果、特に日本人で多型頻度が高い遺伝子座であるNLRP10遺伝子が有意に関連することがわかった(p<5.8×10-4)。そして、この遺伝子のリスクアレルを持つと、発症年齢が約3年早まることが示された。
リスクアレル数・GRSは発症年齢と逆相関、影響の強いリスクアレルは早期発症につながる
次に、NLRP10遺伝子以外の16の疾患感受性領域でのリスクアレル数、あるいは遺伝的リスクスコア(GRS)と発症年齢との相関を調べた。その結果、リスクアレル数、GRSともに、発症年齢と有意に逆相関(負の相関)していた。また、17の疾患感受性領域のリスクアレルをそれぞれ持つと、平均して約半年発症が早いことが判明。これらの結果から、疾患感受性遺伝子は年齢特異性を考慮して解釈すべきこと、そして遺伝的影響が強ければ早い発症につながることが示された。
多遺伝子レベルでも、遺伝的リスク高で発症早まる
続いて、疾患感受性と発症年齢の遺伝子構造を多遺伝子レベルで解析。アトピー性皮膚炎のリスクと発症年齢に対し、一塩基多型(SNP)の効果量の相関解析を行った。その結果、アトピー性皮膚炎の疾患感受性GWASの有意領域以外のSNPにおいても有意に逆相関を示し、アトピー性皮膚炎のリスクと発症年齢両方においてGWAS有意領域以外でも遺伝的に関連があることが示された。
また、GWAS有意領域の影響を排除したポリジェニックリスクスコア(PRS)を計算。その結果、アトピー性皮膚炎の感受性と発症年齢には有意に逆相関が得られ、多遺伝子レベルにおいても、発症の遺伝的リスクが高ければ早い発症年齢につながることがわかった。
発症年齢により異なる遺伝的構造、症状の違いが遺伝的要因による可能性
最後に、17か所の疾患感受性領域の遺伝的リスクの効果量は、発症年齢の違い(early onsetあるいはlate onset)により異なっており、発症年齢によるアトピー性皮膚炎の異なる遺伝的構造が示された。これは、17か所の疾患感受性領域それぞれにおいて発症年齢に及ぼす遺伝的影響の強さが異なること、つまり、発症年齢によるアトピー性皮膚炎の症状の違いが遺伝的要因による可能性を意味しているという。
発症年齢によるアトピー性皮膚炎病態のさらなる解明に期待
今回の研究では、日本人特有の特定の遺伝子座のリスクアレルを持つと発症年齢が約3年早まることが解明された。また、アトピー性皮膚炎は年齢依存的な多遺伝子構造を示し、遺伝的リスクが高いほど発症が早まることがわかった。さらに、アトピー性皮膚炎の疾患感受性領域それぞれの、発症年齢に及ぼす遺伝的影響の強さは異なることが解明された。
これらの結果は、発症年齢によるアトピー性皮膚炎の病態のさらなる解明につながり、それぞれの病態に応じた新しい治療法や予防法の開発、高リスクの患者に対する遺伝的に発症するリスクの大きさによって層別化された早期介入に貢献できるものと期待できる、と研究グループは述べている。