デルマニアのブログ

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とある皮膚科医のブログです。

2歳までのアトピー性皮膚炎は幼児期の神経発達障害リスクと関連

この論文に着目した理由

 これまで小児および成人において、うつ病、不安、注意欠陥・多動症ADHD)などの精神疾患アトピー性皮膚炎(AD)との関連が報告されています。今回紹介する論文は、韓国の国民健康保険サービス(National Health Insurance Service;NHIS)のデータベースを用いて、2008年から2012年の間に生まれた239万5966人の小児を対象に、ADと神経発達機能障害との関連を分析したものです。

 ADは、症例の90%で生後2年以内に発症するため、この研究では、24カ月までにICD-10(国際疾病分類第10版)L20.9において、5つ以上の項目でADと診断された子どもを対象としています。また、①妊娠37週以前の出生、②出生体重2.5kg未満または4.5kg超、③生後6カ月までに集中治療室(ICU)に1日以上、または生後1年までに5日超の入院、④死亡、⑤双胎出生、⑥のちに神経発達に影響すると考えられる周産期に関わる診断を受けた子どもは、除外しています。

 最終的に8万9452人が対照群に、3万557人がAD群に分類されました。アウトカムは、6歳時点における韓国の乳幼児発達スクリーニングテストの粗大運動能力、微細運動能力、認知、言語、社会性、セルフケア領域における神経発達機能障害の疑いとし、非常に確からしい研究となっています。先行研究において、小児における有病率の高いADと認知機能障害との関連を報告した研究はほとんどありません。しかし、児童精神科外来の臨床経験では、ADと神経発達症群は関連することを実感しているため、この研究に着目しました。

私の見解

 NHISは、韓国の全人口の98%をカバーする保険制度であり、非常に大々的な調査だと言えます。また、アウトカムとして、6歳時点で乳幼児発達スクリーニングテストを行っていることが、非常に興味深い点です。

 結果として、補正データでは、AD群は対照群に比べ、乳幼児発達スクリーニングテストの総スコア(補正オッズ比1.10、95%CI 1.05-1.16)、粗大運動能力(同1.14、1.04-1.25)、微細運動能力(同1.15、1.06-1.25)において、神経発達機能障害が疑われるリスクが高いことが示されました。また、ステロイドを使用したAD群または入院したAD群では、神経発達機能障害が疑われるリスクの上昇が認められました。さらにAD群では、ADHDのほか、精神遅滞や精神発達障害、行動・情緒障害との有意な関連がみられました。

 ADは慢性的かつ反復性の皮膚炎を特徴とした疾患です。遺伝素因や皮膚バリア機能障害、免疫調節障害などが原因として考えられていますが、病因は現在でも明らかになっていません。今回の研究は、自己免疫疾患感染症心疾患悪性腫瘍神経精神疾患は、ADの全身性免疫調節障害の病態生理と関連があることを明らかにしたものだと考えます。

日常臨床への生かし方

 この論文では、生後24カ月までに診断されたADは、幼児期における粗大運動能力と微細運動能力を含めた神経発達機能障害リスクの上昇と関連付けられました。AD患者を診療する小児科医、皮膚科医は、日常診療において合理的配慮が必要になる可能性があると考えます。

 

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov