デルマニアのブログ

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とある皮膚科医のブログです。

皮膚癌、ポストICIの治療薬も続々

薬物療法の大きな進歩、ICIとBRAF/MEK阻害薬:主要試験を辿る

CheckMate 067試験 8)

 治療歴のない進行期メラノーマ945例を対象に、ニボルマブイピリムマブ併用療法とニボルマブをそれぞれイピリムマブと比較する第III相ランダム化比較試験(RCT)が行われ、いずれもイピリムマブに対してprogression-free survival(PFS)とoverall survival(OS)を有意に延長しました。長期フォローアップ結果が報告され、Grade 3以上の治療関連の有害事象(AE)は併用療法群59%、ニボルマブ群24%、イピリムマブ群28%、OS中央値はそれぞれ72.1カ月、36.9カ月、19.9カ月で、ニボルマブ+イピリムマブ併用療法ではAEの頻度が高い一方で、長期生存が期待できることが示されました。

RELATIVITY-047試験 9)

 治療歴のない進行期メラノーマ714例を対象に、抗LAG-3抗体のrelatlimabとニボルマブの固定用量配合剤(relatlimab–nivolumab)とニボルマブを比較する第II/III相RCTが行われ、primary endpointであるPFSの中央値はそれぞれ10.1カ月と4.6カ月、HRは0.75(95%CI 0.62-0.92)とrelatlimab–nivolumabで有意にPFSを延長しました。Grade 3以上の治療関連AEはそれぞれ18.9%と9.7%でした。

DREAMseq(ECOG-ACRIN EA6134)試験 10)

 治療歴のないBRAF V600変異を有する進行期メラノーマ265例を対象に、ニボルマブイピリムマブ併用療法とダブラフェニブトラメチニブを比較する第III相RCTが行われました。Primary endpointであるOSの2年割合はそれぞれ71.8%と51.5%(P=0.010)であり、ニボルマブイピリムマブ併用療法を先行させ、増悪時にダブラフェニブトラメチニブに変更する投与順序が望ましいと結論付けられました。

SECOMBIT試験 11)

 治療歴のないBRAF V600変異を有する進行期メラノーマ209例を対象に、(1)エンコラフェニブビニメチニブで開始し、増悪時にニボルマブイピリムマブ併用療法に切り替えるレジメン、(2)ニボルマブ+イピリムマブ併用療法で開始し、増悪時にエンコラフェニブ+ビニメチニブに切り替えるレジメン、(3)エンコラフェニブビニメチニブを8週投与後に計画的にニボルマブイピリムマブ併用療法に切り替えるレジメン――の3群を比較するランダム化第II相試験が行われました。Primary endpointであるOSの2年割合はそれぞれ65%、73%、69%でした。

私の視点

10年で増えた薬物療法の選択肢と課題

 根治切除不能または転移性メラノーマに対する薬物療法は、長らく有効性の乏しいダカルバジンがみなし標準として用いられてきましたが、近年の分子生物学や腫瘍免疫学の発展により、現在ではニボルマブペムブロリズマブといった抗PD-1抗体ニボルマブ抗CTLA-4抗体であるイピリムマブの併用療法などのICI、BRAF V600変異があればダブラフェニブトラメチニブまたはエンコラフェニブビニメチニブといったBRAF/MEK阻害薬が第一選択薬として用いられています。

 この10年で、メラノーマの薬物療法の選択肢は広がったものの、どの薬剤を第一選択とするか、どういった薬剤の使用順序が勧められるか、といった薬物療法の選択手順に関する明確な指針は存在しません。これまでBRAF変異型メラノーマでは主にBRAF/MEK阻害薬ニボルマブイピリムマブ併用療法、BRAF野生型メラノーマでは主に抗PD-1抗体単独療法とニボルマブ+イピリムマブ併用療法のいずれを選択するか、が焦点となってきました。

BRAF変異型、日本人でのICI先行は妥当か

 BRAF変異型メラノーマについては、DREAMseq試験の結果から、ニボルマブイピリムマブ併用療法を先行させ、増悪時にダブラフェニブトラメチニブに変更する投与順序の方が、その逆の投与順序よりも2年OS割合が優れることが示され、ICIを先行させる方が望ましいという見解になりつつあります10)。その論拠として、ダブラフェニブ+トラメチニブの奏効割合はfirst-lineで43.0%、second-lineで47.8%と大きな違いはないのに対し、ニボルマブイピリムマブ併用療法ではfirst-lineで46.0%、second-lineで29.6%であり、ICIはfirst-lineで用いた方が効果が高いことが挙げられています。

 しかしながら、日本人を対象に行われたONO-4538-17試験では、first-lineで投与されたニボルマブイピリムマブ併用療法の奏効割合は43%と12)、白人を主体としたCheckMate 067試験の58%より低いことから 8), 13)-16)、この結果をそのまま日本人に適用することの妥当性には疑問が残ります。

BRAF/MEK阻害薬、先行投与の臨床効果は

 SECOMBIT試験では、エンコラフェニブビニメチニブを8週間投与後に計画的にニボルマブイピリムマブ併用療法に変更する試験治療群も含まれましたが、観察期間中央値32.2カ月時点ではニボルマブ+イピリムマブ併用療法群と同程度の治療成績で、少なくともBRAF/MEK阻害薬を一定期間先行投与する治療戦略で臨床効果が飛躍的に向上することは期待できなさそうです11)。ただし、この治療戦略の最終的な評価は、SECOMBIT試験の長期成績や、同様の治療戦略を異なる先行投与期間で検証している他の進行中の試験の結果を待つ必要があります。

BRAF野生型、粘膜型へのICI併用の意義は

 BRAF野生型メラノーマについては、CheckMate 067試験のサブグループ解析が重要です。同解析では、ニボルマブ単独療法に対するニボルマブイピリムマブ併用療法のPFSのHRがBRAF変異型では0.68(95% CI 0.46-1.0)であったのに対して、BRAF野生型ではHR:0.92(0.71-1.18)とイピリムマブの上乗せ効果が乏しいことが示唆されています。

 実臨床では、免疫関連有害事象(irAE)が生じた際、長期間のステロイド薬の全身投与に耐えられる全身状態であることを前提に、脳転移がある、腫瘍量が多い、進行が速い、LDH高値、PD-L1発現が低値、病型が粘膜型や末端型――などの場合にニボルマブイピリムマブ併用療法が選択されやすい傾向があります。この中で、アジア人に多い粘膜型について、大規模な国内17)および国際後ろ向き研究が実施されました。後者では粘膜メラノーマ545例において、抗PD-1抗体単独療法とニボルマブイピリムマブ併用療法はPFSとOSのいずれにおいても有意差が見られず、人種による違いも見られませんでした18)

 この結果から、今後は粘膜型というだけで画一的にニボルマブ+イピリムマブ併用療法が選択される機会は減ると予想されます。一方で例数は少ないものの、CheckMate 067試験のサブグループ解析では、粘膜型におけるイピリムマブの上乗せ効果が示唆されています。現時点では、転移巣の部位や腫瘍量、合併症や患者さんの意向などを含め、総合的な観点から個々の患者さんごとに薬剤を選択せざるを得ず、治療効果を的確に予測できるバイオマーカーの開発が望まれます。

ポストICIの併用療法も続々

 今後の展開として、抗PD-1抗体を主体とした併用療法の開発が挙げられます。最も実績があるのはニボルマブイピリムマブ併用療法ですが、イピリムマブの用量が3mg/kgと多いこともあり、irAEの頻度が高く、よりリスクベネフィットバランスに優れた併用療法の開発が望まれています。

 これまで、IDO(Indoleamine 2,3-Dioxygenase)1阻害薬であるepacadostatペムブロリズマブを併用したKEYNOTE-252試験、ダブラフェニブトラメチニブ抗PD-1抗体であるspartalizumabを併用したCOMBI-i試験、腫瘍溶解性ウイルスであるT-VECとペムブロリズマブを併用したMASTERKEY-265試験、pegylated-IL-2製剤であるbempegaldesleukinとニボルマブを併用したPIVOT IO 001試験などの第III相RCTが行われました。いずれも既存の標準治療を上回ることはできませんでした。

 そういった状況の中、抗LAG-3抗体のrelatlimabとニボルマブの固定用量配合剤であるrelatlimab–nivolumab (商品名:Opdualag)を用いたRELATIVITY-047試験では、ニボルマブに対して有意にPFSを延長させ、2022年にFDAとEMAに承認されています9)。また、メラノーマでもVEGFR阻害薬抗PD-1抗体の併用療法の臨床試験が複数行われています。

ワンポイントレクチャー

ICIの臨床効果が低いアジア人の至適レジメンは

 メラノーマへの第一選択薬として、長期生存が期待できるICIが主流になりつつあります。同時にアジア人のメラノーマは白人と比較してICIの臨床効果が乏しいことも示されており、白人主体のデータの解釈には注意が必要です。アジア人でICIの臨床効果が劣る理由として、以前から末端型や粘膜型などの病型が多いことは指摘されていましたが、近年では非末端型の皮膚メラノーマにおいても、アジア人ではICIの臨床効果が低いことが報告されています。その理由として、紫外線の影響を受けにくいスキンタイプであることに起因して、腫瘍細胞における体細胞変異数が白人より少ない可能性が挙げられています19)。一方、日本人のBRAF変異陽性メラノーマに対するBRAF/MEK阻害薬の臨床効果は白人と概ね同等です。

 RELATIVITY-047試験の結果を受け、nivolumab-relatlimabは抗PD-1抗体単独療法に取って替わると考えられますが、今後はニボルマブイピリムマブ併用療法との使い分けが論点になるでしょう。IrAEの観点からは、Grade 3以上のAEがニボルマブ+イピリムマブ併用療法の59%に対して、nivolumab-relatlimabは18.9%と明らかに優れていました。一方で、ニボルマブイピリムマブ併用療法では生存期間中央値が72.1カ月と長期生存が見込めることが示されているのに対し、nivolumab-relatlimabの観察期間はまだ短く、長期成績は報告されていません。なお、わが国はRELATIVITY-047試験に参加しておらず、同薬の国内導入時期などは不明です 。

※参考文献
8) Wolchok JD, Chiarion-Sileni V, Gonzalez R, Grob JJ, Rutkowski P, Lao CD, et al. Long-Term Outcomes With Nivolumab Plus Ipilimumab or Nivolumab Alone Versus Ipilimumab in Patients With Advanced Melanoma. J Clin Oncol. 2022;40(2):127-37.
9) Tawbi HA, Schadendorf D, Lipson EJ, Ascierto PA, Matamala L, Castillo Gutierrez E, et al. Relatlimab and Nivolumab versus Nivolumab in Untreated Advanced Melanoma. N Engl J Med. 2022;386(1):24-34.
10) Atkins MB, Lee SJ, Chmielowski B, Tarhini AA, Cohen GI, Truong TG, et al. Combination Dabrafenib and Trametinib Versus Combination Nivolumab and Ipilimumab for Patients With Advanced BRAF-Mutant Melanoma: The DREAMseq Trial-ECOG-ACRIN EA6134. J Clin Oncol. 2022;0(ja):JCO2201763.
11) Ascierto PA, Mandala M, Ferrucci PF, Guidoboni M, Rutkowski P, Ferraresi V, et al. Sequencing of Ipilimumab Plus Nivolumab and Encorafenib Plus Binimetinib for Untreated BRAF-Mutated Metastatic Melanoma (SECOMBIT): A Randomized, Three-Arm, Open-Label Phase II Trial. J Clin Oncol. 2022:JCO2102961.
12) Namikawa K, Kiyohara Y, Takenouchi T, Uhara H, Uchi H, Yoshikawa S, et al. Efficacy and safety of nivolumab in combination with ipilimumab in Japanese patients with advanced melanoma: An open-label, single-arm, multicentre phase II study. Eur J Cancer. 2018;105:114-26.
13) Larkin J, Chiarion-Sileni V, Gonzalez R, Grob JJ, Cowey CL, Lao CD, et al. Combined Nivolumab and Ipilimumab or Monotherapy in Untreated Melanoma. N Engl J Med. 2015;373(1):23-34.
14) Wolchok JD, Chiarion-Sileni V, Gonzalez R, Rutkowski P, Grob JJ, Cowey CL, et al. Overall Survival with Combined Nivolumab and Ipilimumab in Advanced Melanoma. N Engl J Med. 2017;377(14):1345-56.
15) Hodi FS, Chiarion-Sileni V, Gonzalez R, Grob JJ, Rutkowski P, Cowey CL, et al. Nivolumab plus ipilimumab or nivolumab alone versus ipilimumab alone in advanced melanoma (CheckMate 067): 4-year outcomes of a multicentre, randomised, phase 3 trial. Lancet Oncol. 2018;19(11):1480-92.
16) Larkin J, Chiarion-Sileni V, Gonzalez R, Grob JJ, Rutkowski P, Lao CD, et al. Five-Year Survival with Combined Nivolumab and Ipilimumab in Advanced Melanoma. N Engl J Med. 2019;381(16):1535-46.
17) Nakamura Y, Namikawa k., et al. (2021). "Anti-PD-1 antibody monotherapy versus anti-PD-1 plus anti-CTLA-4 combination therapy as first-line immunotherapy in unresectable or metastatic mucosal melanoma: a retrospective, multicenter study of 329 Japanese cases (JMAC study)." ESMO Open 6(6): 100325.
18) Dimitriou F, Namikawa K, Reijers ILM, Buchbinder EI, Soon JA, Zaremba A, et al. Single-agent anti-PD-1 or combined with ipilimumab in patients with mucosal melanoma: an international, retrospective, cohort study. Ann Oncol. 2022;33(9):968-80.
19) Bai X, Shoushtari AN, Betof Warner A, Si L, Tang B, Cui C, et al. Benefit and toxicity of programmed death-1 blockade vary by ethnicity in patients with advanced melanoma: an international multicentre observational study. Br J Dermatol. 2022;187(3):401-10.
20) Luke JJ, Rutkowski P, Queirolo P, Del Vecchio M, Mackiewicz J, Chiarion-Sileni V, et al. Pembrolizumab versus placebo as adjuvant therapy in completely resected stage IIB or IIC melanoma (KEYNOTE-716): a randomised, double-blind, phase 3 trial. Lancet. 2022;399(10336):1718-29.