デルマニアのブログ

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とある皮膚科医のブログです。

食事からのナトリウム摂取量がアトピー性皮膚炎リスクに関連 食塩摂取制限が低コストかつ安全な介入となる

 食事からのナトリウム摂取量が多いとアトピー性皮膚炎リスクが高まる可能性が、米国研究皮膚科学会年次総会(SID 2022、5月18~21日、米ポートランド)で報告された。

 米カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)のMorgan Ye氏らは、1999~2000年、2001~2002年、2003~2004年に実施された米国国民健康栄養調査(NHANES)での米国の小児と成人1万3,183人について、ナトリウム摂取量とアトピー性皮膚炎の関連を調べた。

 その結果、1日のナトリウムの平均摂取量は3.30gで、6%が調査時点での皮膚炎、12%が過去1年の皮膚炎を報告。年齢、性別、民族、所得貧困比などの潜在的交絡因子で調整後、1日のナトリウム摂取量が1g増えるごとに、調査時点での皮膚炎リスクが増大(調整オッズ比1.22、95%信頼区間1.02~1.45)、過去1年の皮膚炎リスクも有意ではないが増大していた(同1.15、0.98~1.34)。

 著者らは、「このデータは、塩分摂取制限がアトピー性皮膚炎の低コストかつ安全な介入となることを支持するが、アトピー性皮膚炎のより明確な測定方法を使用した縦断的集団コホートでの研究が必要とされる」と述べている。

 

 

基底細胞がん診断でOCTがパンチ生検に非劣性

 顔面のHゾーン(高リスクゾーン)以外の基底細胞がんの疑いで生検の適応がある患者598例を対象に、光干渉断層計(OCT)の使用で生検を回避できるかを無作為化非劣性試験で検討。被験者を無作為化によりOCT群とパンチ生検群に割り付けた。

 その結果、治療12カ月後に再発または残存病変(がんまたは前がん状態)のない患者の割合はOCT群が94%、パンチ生検群が93%だった。修正intention-to-treat解析で、絶対差は1.07%(95%CI -2.93-5.06、片側P=0.30)となり、95%信頼区間の下限値が事前に設定した非劣性マージン-10%を超えず、OCTのパンチ生検に対する非劣性が示された。per-protocol解析では、再発または残存病変のない患者の割合がOCT群95%、通常ケア群94%で、絶対差は0.81%(同-2.98-4.60、片側P=0.34)だった。

 

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

中等症~重症アトピーの外用薬併用、アブロシチニブvs.デュピルマブ/Lancet

 中等症~重症のアトピー性皮膚炎(AD)患者において、外用療法へのアブロシチニブ1日1回200mg併用はデュピルマブ併用と比較し、かゆみおよび皮膚症状の早期改善に優れており、忍容性は同様に良好であったことが、ドイツ・ハンブルク・エッペンドルフ大学医療センターのKristian Reich氏らが実施した第III相無作為化二重盲検実薬対照ダブルダミー並行群間比較試験「JADE DARE試験」の結果、示された。先行の第III相試験では、中等症~重症の成人AD患者において、プラセボに対するアブロシチニブの有効性が確認されていた。Lancet誌2022年7月23日号掲載の報告。

ステロイド外用薬等との併用で早期治療効果を評価

 JADE DARE試験は、オーストラリア、ブルガリア、カナダ、チリ、フィンランド、ドイツ、ハンガリー、イタリア、ラトビアポーランドスロバキア、韓国、スペイン、台湾、米国の151施設で実施された(2021年7月13日試験終了)。全身療法を必要とする、または外用薬で効果不十分な18歳以上の中等症~重症のAD患者を対象とし、アブロシチニブ(1日1回200mg経口投与)群またはデュピルマブ(2週間ごと300mg皮下投与)群に1対1の割合で無作為に割り付け、26週間投与した。全例が、ステロイド外用薬(弱~中力価)、外用カルシニューリン阻害薬、または外用ホスホジエステラーゼ4阻害薬の併用を必須とした。

 主要評価項目は、2週時のPeak Pruritus Numerical Rating Scale(PP-NRS)スコアがベースラインから4点以上改善(PP-NRS4)達成、4週時の湿疹面積・重症度指数(Eczema Area and Severity Index:EASI)スコアが90%以上改善(EASI-90)達成に基づく奏効率とした。

 無作為に割り付けされ、治験薬を少なくとも1回投与された患者を有効性および安全性の解析対象集団とし、両側有意水準0.05で逐次多重検定によりファミリーワイズの第1種の過誤をコントロールした。

2週時のかゆみと皮膚症状、アブロシチニブで有意に改善

 2020年6月11日~12月16日の期間に940例がスクリーニングされ、727例が登録・割り付けされた(アブロシチニブ群362例、デュピルマブ群365例)。

 2週時にPP-NRS4を達成した患者の割合は、アブロシチニブ群(172/357例、48%[95%信頼区間[CI]:43.0~53.4])がデュピルマブ群(93/364例、26%[21.1~30.0])より高く(群間差:22.6%[95%CI:15.8~29.5]、p<0.0001)、4週時にEASI-90を達成した患者の割合も同様(アブロシチニブ群101/354例・29%[23.8~33.2]vs.デュピルマブ群53/364例・15%[10.9~18.2]、群間差:14.1%[8.2~20.0]、p<0.0001)であり、アブロシチニブ群のほうが主要評価項目を達成した割合が高かった。

 有害事象は、アブロシチニブ群で362例中268例(74%)、デュピルマブ群で365例中239例(65%)に認められた。治療に関連しない死亡がアブロシチニブ群で2例報告された。

 

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

サル痘予防にKMバイオの天然痘ワクチンを承認/厚生労働省

 厚生労働省は8月2日のプレスリリースで、KMバイオロジクスの天然痘ワクチン(一般名:乾燥細胞培養痘そうワクチン、販売名:乾燥細胞培養痘そうワクチンLC16「KMB」)に対し、サル痘予防の効能追加を承認したことを発表した。

 本ワクチンのサル痘予防の効能追加承認にあたり、添付文書が改訂された。主な追記部分は以下のとおり。

<添付文書情報>
【効能・効果】
痘そう及びサル痘の予防
【用法・用量】
本剤を添付の溶剤(20vol%グリセリン加注射用水)0.5mLで溶解し、通常、二叉針を用いた多刺法により皮膚に接種する。
【接種上の注意】
4.副反応
(1)重大な副反応
1)ショック、アナフィラキシー(いずれも頻度不明):ショック、アナフィラキシー(蕁麻疹、呼吸困難、口唇浮腫、喉頭浮腫等)があらわれることがあるので、接種後は観察を十分に行い、異常が認められた場合には適切な処置を行うこと。
(2)その他の副反応(頻度不明)
接種局所のほか、接種10日前後に全身反応として発熱、発疹、腋下リンパ節の腫脹をきたすことがある。また、アレルギー性皮膚炎、多形紅斑が報告されている。
5.妊婦、産婦、授乳婦等への接種
妊娠していることが明らかな者には接種しないこと。妊娠可能な女性においては、あらかじめ約1ヵ月間避妊した後接種すること、及びワクチン接種後約2ヵ月間は妊娠しないように注意させること。授乳婦においては、予防接種上の有益性及び母乳栄養の有益性を考慮し、授乳の継続又は中止を検討すること。
6.接種時の注意
(2)接種時
本剤の溶解に当たっては、容器の栓及びその周囲をアルコールで消毒した後、添付の溶剤0.5mLで均一に溶解する。溶解後に金属の口金を切断してゴム栓を取り外す。二叉針の先端部を液につけワクチン1人分を吸い取る。溶解後のワクチン液は、専用の二叉針で50人分以上を採取することができる。
(4)接種方法
多刺法:二叉針を用いる方法で、針を皮膚に直角に保ち、針を持った手首を皮膚の上において、手首の動きで皮膚を圧刺する。圧刺回数は、通常、専用の二叉針を用いて15回を目安とし、血がにじむ程度に圧刺する。他の二叉針を用いる場合は、それらの二叉針の使用上の注意にも留意して圧刺すること。接種箇所は、上腕外側で上腕三頭筋起始部に直径約5mmの範囲とする。
7.その他の注意
(1)本剤接種後に被接種者が接種部位を手などで触り、自身の他の部位を触ることで、ワクチンウイルスが他の部位へ広がる自家接種(異所性接種)が報告されている。また、海外において、本剤とは異なるワクチニアウイルス株を用いた生ワクチン(注射剤)接種後に、ワクチン被接種者から非接種者へのワクチンウイルスの水平伝播が報告されている。接種部位の直接の接触を避け、また触れた場合はよく手指を水洗いすること。
(2)WHOより発出されたサル痘に係るワクチン及び予防接種のガイダンスにおいて、サル痘ウイルス曝露後4日以内(症状がない場合は14日以内)に、第二世代又は第三世代の適切な痘そうワクチンを接種することが推奨されている。

 

医療従事者への4回目接種は有効か 岩田健太郎

研究の背景:波紋を呼ぶ「4回目接種効果なし」の報告

 どうも、「4回目のワクチンは医療従事者には効かない」という意見を散見する。

根拠となっているのはNEJMに出たレターである。イスラエルからの報告で、ファイザーとモデルナのmRNAワクチン4回目の免疫原性と安全性そして効果が吟味された。1,050人の医療従事者のうち、154人が4回目接種を受けた。どちらのワクチンも接種後に血中中和抗体の上昇が認められたが、3回接種群では時間経過とともに中和抗体価の減衰が認められた。観察期間は1カ月程度だが、ポワソン回帰モデルを用いると、3回接種群で25%、ファイザー4回目で18.3%、モデルナで20.7%に感染が認められた。ここから算出されたワクチン効果は30%で、統計的有意差は得られなかった。ただし、有症状の感染に対する効果はより高かった(ファイザーで43%、モデルナで31%)。

Regev-Yochay G, Gonen T, Gilboa M, Mandelboim M, Indenbaum V, Amit S, et al. Efficacy of a Fourth Dose of Covid-19 mRNA Vaccine against Omicron. New England Journal of Medicine. 2022 Apr 7;386(14):1377-80.

 しかし、この研究は非常に規模が小さくて、両群の差を吟味するには不十分だ。さらに、両群はランダム化されていないのだが、登録期間にずれがあり、これもまたバイアスの根拠となっている。よって、この研究をもって「医療従事者に4回目ワクチンは無意味」という結論をつけることはできない。

 そこで今回紹介するのは、より大きな規模で医療従事者への4回目ワクチンの効果を吟味したスタディーである。やはりイスラエルからのもので、プレプリントだ。

Cohen MJ, Oster Y, Moses AE, Spitzer A, Benenson S, Group the I hospitals 4th vaccine W. Effectiveness of the BNT162b vaccine fourth dose in reducing SARS-CoV-2 infection among healthcare workers in Israel, a multi-center cohort study [Internet]. medRxiv; 2022 [cited 2022 Jul 28]. p. 2022.04.11.22273327.

研究の概要:より大規模な研究で感染の半減を確認

 イスラエルでは、ファイザーのmRNAワクチンの3回目ブースターを2021年9月までに提供し、成人の90%が接種を受けた(医療従事者は95%以上)。さらに同年12月30日より、イスラエル保健省は60歳以上、免疫抑制者そして医療従事者に4回目のワクチンを推奨し始めた。ただし、4回目接種を受けるか否かは個々の判断に委ねられた。提供は2022年1月2日より開始された。3回目から4、5カ月後、ということになる。

 本研究は、4回目接種を受けて6日以上経過した者と、3回接種だけの者の感染率を比較したものである。イスラエルでは個々のワクチン接種データと病院の臨床データを突合できるので、ワクチン接種歴に応じた感染率の算出が可能なのだ。今回の研究では、11病院(イスラエルにおける急性期病院の約半数に相当する)の医療従事者に関するデータを検討した。除外基準としては、2022年1月までにCOVID-19に罹患していないことが条件となった。診断はPCRで行われた。

 2021年8月から9月にかけて3回目のワクチン接種を受けた医療者(HCW)は29,612人だった。そのうち5,331人(18%)が2022年1月に4回目のワクチン接種を受け、かつ接種後1週間COVIDの発症がなかった。男性、年齢の高い人が4回目の接種を受けやすい傾向にあった。

 感染率は、4回接種群で368/5,331(6.9%)、3回接種群では4,802/24,280(19.8%)であった。割合の比を見たRate ratio(RR)は0.35(0.32〜0.39)であり、病院、性別、年齢層、職業でマッチした場合のRRは0.61(0.54〜0.71)だった。Cox回帰モデルを用いた調整ハザード比は0.56(0.50〜0.63)だった。両群に重症例や死亡例は出ていない。コホートの未調整なカプランマイヤー・カーブが文献図Aに、マッチされたコホートでのKMカーブは図Bに示されている。

臨床現場での考え方:不明点は多いが4回目を躊躇する根拠は乏しい

 このコホート研究は2022年1月のデータを見ている。南アフリカ共和国でオミクロンのBA.4とBA.5が流行しだしたのが2022年2〜3月なので、こうした変異株については検討されていないと考えるべきだろう。

Haseltine WA. New Members Of The Omicron Family Of Viruses: BA.2.12.1, BA.4, And BA.5 [Internet]. Forbes. [cited 2022 Jul 28].

 また、4回目ワクチンの長期的なデータについても本研究では分からない。さらに、ワクチン接種するかどうかは個人の決断に委ねられているため、ワクチン接種者がより感染回避の行動をとっていたとか、より健康だった(かも)といったバイアスの存在の可能性は否めない。

 とはいえ、KMカーブで一貫して感染リスクが低いことを考えると、医療従事者に対する4回目のワクチンは感染そのものを半減させる可能性がある、とはいえそうだ(ただし、BA.5とか、これから出てくるかもしれないBA.2.75などについては未知なままだ)

 ちなみに、長期療養施設入所者を対象とした4回目ワクチンの評価についてはカナダのオンタリオで行われた研究がある。ワクチン評価でよく行われるtest negative studyだが、感染防止には19%の効果、有症状の感染防止には31%、重症化については40%の防止効果が認められた。

Grewal R, Kitchen SA, Nguyen L, Buchan SA, Wilson SE, Costa AP, et al. Effectiveness of a fourth dose of covid-19 mRNA vaccine against the omicron variant among long term care residents in Ontario, Canada: test negative design study. BMJ. 2022 Jul 6;378:e071502.

 一方、オミクロンに特化したワクチンについては複数のメーカーが開発しているが、臨床試験で確定した効果や安全性についてはまだ未知なままだ。

Fang Z, Peng L, Filler R, Suzuki K, McNamara A, Lin Q, et al. Omicron-specific mRNA vaccination alone and as a heterologous booster against SARS-CoV-2. Nat Commun. 2022 Jun 6;13(1):3250.

 ちなみに、BA.4やBA.5感染に対するプロテクションとしては過去の感染、とりわけオミクロンによる感染が有効だったという、これまたプレプリントの報告があり、Natureでも紹介されていた。カタールからの報告である。ただ、オミクロン感染のほうが非オミクロン感染よりも最近の感染なわけで、当然といえば当然かもしれない。同じ根拠で、過去のオミクロン感染が長期に渡ってBA.5など他の変異株からの感染を防御してくれるのか、いつまで防御してくれるのか、については謎のままだ。

Altarawneh HN, Chemaitelly H, Ayoub HH, Hasan MR, Coyle P, Yassine HM, et al. Protection of SARS-CoV-2 natural in fection against reinfection with the Omicron BA.4 or BA.5 subvariants [Internet]. medRxiv; 2022 [cited 2022 Jul 28]. p.2022.07.11.22277448.

Prillaman M. Prior Omicron infection protects against BA.4 and BA.5 variantsNature [Internet]. 2022 Jul 21 [cited 2022 Jul 28]

 本稿を執筆しているのは7月28日だが、ぼくは8月4日に4回目のワクチン接種を受ける予定だ。これまでの3回はファイザーで、今回はモデルナだ。3回ファイザー、3回目モデルナがどのような利益とリスクを発生させるのかは未知の領域だが、これまでの知見でmRNAワクチンの安全性はかなり吟味されてきたので、ワクチン接種そのものを躊躇する根拠は乏しいと考えている。なんとか、感染無しで第7波を逃げ切れるとよいと思っているのだが、極めて感染力の強いBA.5に対して「これをやれば感染しない」という単純なシングルアンサーはない。

 果たして逃げ切れるかどうか。

 

アトピー性皮膚炎、発症・重症化に関連の機能的SNPをDOCK8遺伝子に発見 九大、研究成果は、「Allergy」にオンライン掲載

DOCK8エキソン上の遺伝子多型に注目、アトピー性皮膚炎患者の臨床検体を用いて検証

 九州大学は7月16日、遺伝子DOCK8に注目することでアトピー性皮膚炎の発症および重症化に関わる機能的な遺伝子多型が存在することを発見したと発表した。この研究は、同大生体防御医学研究所の福井宣規主幹教授、國村和史助教、同大学院医学研究院皮膚科学分野の中原剛士教授、山村和彦助教の研究グループによるもの。研究成果は、「Allergy」にオンライン掲載されている。

 アトピー性皮膚炎はかゆみを伴う慢性炎症性の皮膚疾患であり、国民の7~15%が罹患しているとされている。かゆみは学業・仕事の生産性低下や睡眠障害を引き起こし、生活の質を著しく損なうことが問題視されている。近年、かゆみを引き起こす物質としてIL-31が発見され、IL-31の産生レベルとアトピー性皮膚炎の重症度が相関することや、IL-31受容体をターゲットとした抗体製剤がアトピー性皮膚炎患者のかゆみを抑えることがわかり、注目を集めている。

 これまでに福井宣規主幹教授らは、分子DOCK8を欠損したヒトやマウスにおいてT細胞でのIL-31産生が亢進し、重篤アトピー性皮膚炎を自然発症することに着目し、T細胞で発現する遺伝子をDOCK8の有無で比較・解析することで、IL-31の産生に転写因子EPAS1が重要な役割を演じることを見出している。また、刺激を受けた細胞内ではEPAS1は細胞質から核内に移行していく。DOCK8が無いとこの核移行が亢進することから、DOCK8はEPAS1を細胞質に繋ぎ止める役割を担っていることを明らかにしてきた。しかし、アトピー性皮膚炎の患者全員がDOCK8を欠損しているわけではなく、患者と健常人の間でDOCK8タンパク質の発現量に差はなかった。そこでDOCK8エキソン上の遺伝子多型に注目し、アトピー性皮膚炎の発症や重症化と関連性があるかどうか、アトピー性皮膚炎患者の臨床検体を用いて検証した。

DOCK8遺伝子多型rs17673268、重症患者はTT遺伝子型が多い

 今回の研究では、20歳以上の日本人のアトピー性皮膚炎患者46人および健常人46人を対象に、DOCK8の全エキソン(48個)におけるゲノム配列をダイレクトDNAシーケンシングによって解読し、比較検討。その結果、DOCK8エキソン2上に存在する一塩基多型、rs17673268がアトピー性皮膚炎患者と健常人の間で大きく異なっていることを見つけた。このDOCK8遺伝子多型において、大部分の人はシトシン(C)塩基を持っているが、アトピー性皮膚炎患者ではチミン(T)塩基に置き換わっている頻度が有意に高いことがわかった。

 また、両アレルがT(TT遺伝子型)である頻度は健常者11%に対しアトピー性皮膚炎患者では28%と有意に高くなっており、CC遺伝子型と比べて発症リスクの上昇を示した(オッズ比,4.00;95%信頼区間,1.11-12.87)。

 次に、この遺伝子多型とアトピー性皮膚炎の重症度との関連性を解析。IGA(Investigator Global Assessment)やEASI(Eczema Area and Severity Index)と呼ばれる重症度スコアを用いてアトピー性皮膚炎患者群で遺伝子多型を比較した結果、重症の皮膚炎患者(IGAスコア4点)は、CT遺伝子型あるいはTT遺伝子型でしか認められなかった。アトピー性皮膚炎、特に重症の皮膚炎患者では、DOCK8のrs17673268部位がTT遺伝子型である頻度が高い。この遺伝子多型は、かゆみを引き起こすIL-31の発現を制御する転写因子EPAS1の核移行性に関与している。さらに、中等症以上の患者をEASIスコア(高いほど重症)で比較したところ、CTよりTT遺伝子型でEASIスコアがより高く、重症化している患者が多いことがわかった。

DOCK8遺伝子多型、EPAS1核移行制御でIL-31発現に関与し、発症や重症化につながっている可能性

 このrs17673268におけるCからTへの一塩基置換は、アラニンからバリンへのアミノ酸置換(ミスセンス変異)をもたらす(NM_203447.3:c.1790C>T;p.Ala597Val)。そこで、各々の点変異体を発現させた細胞株を作製し、EPAS1の核移行を調べる実験を行った。その結果、TT遺伝子型に該当する遺伝子ベクターを発現した細胞株では、CC遺伝子型に比べてEPAS1の核移行が亢進することを見出した。

 したがって、このDOCK8遺伝子多型は機能的な多型であり、EPAS1の核移行を制御してIL-31発現に関与することで、アトピー性皮膚炎の発症や重症化につながっている可能性が示唆された。

DOCK8遺伝子多型、他の皮膚疾患の病態形成にも関与の可能性

 IL-31の産生に関わるDOCK8およびEPAS1発見に伴い、さまざまなことがわかってきた。今回の研究では、DOCK8遺伝子多型のrs17673268がアトピー性皮膚炎の発症素因や重症化リスクに関連する機能的な遺伝子多型であることが明らかになった。今回の研究成果は比較的小規模な人数で得られたものであるため、日本人以外の国籍も含めたより大規模な集団での検討が今後重要になる。さらなる検討を行うことで、この遺伝子多型がアトピー性皮膚炎患者の抗IL-31受容体抗体への治療反応性予測や層別化医療に応用できる可能性があるという。

 また、IL-31はアトピー性皮膚炎だけでなく、結節性痒疹乾癬、慢性蕁麻疹などの皮膚疾患でも上昇することが報告されているため、今回のDOCK8遺伝子多型はこれら皮膚疾患の病態形成にも関与しているかもしれないという。今後も、さまざまなアレルギー疾患の病態メカニズムを解明するべく、研究を続けていく、と研究グループは述べている。

 

米FDAが尋常性白斑の色素沈着治療にルキソリチニブクリーム承認 24週時点で顔面白斑部の重症度スコアが改善

 米国食品医薬品局(FDA)は7月19日、成人および12歳以上の小児に対する尋常性白斑の色素沈着治療に、ヤヌスキナーゼ(JAK)阻害薬ルキソリチニブクリーム(商品名Opzelura、Incyte社)を承認した。

 Opzeluraは、免疫不全がなく、従来の局所療法で十分にコントロールできないか使用できない12歳以上の軽症から中等症のアトピー性皮膚炎に対し、短期間かつ非継続的な局所使用を適応として承認されている。尋常性白斑の色素沈着に対し承認された薬剤はOpzeluraが初めて。1日2回、全体表面積の最大10%以下の病変部に塗布して使用する。患者の満足度を得るには24週以上の投与を要する場合がある。

 Opzeluraの有効性と安全性は2件の臨床試験で検証されている。いずれも尋常性白斑患者を対象とした無作為化プラセボ対照比較試験で、1日2回、24週間にわたりOpzeluraまたはプラセボを塗布した後、全参加者にOpzeluraを28週間追加で塗布した。その結果、24週間の治療終了時点でF-VASI(facial Vitiligo Area Scoring Index)が75%以上改善した患者の割合は、プラセボ群の10%に対し、Opzelura群では30%だった。

 頻度の高い有害反応には、塗布部のざ瘡と掻痒、感冒頭痛尿路感染症、塗布部の発赤があった。生物的製剤や他のJAK阻害薬アザチオプリンシクロスポリンなどの強力な免疫抑制剤との併用は推奨されない。このほか、炎症性疾患に対しJAK阻害薬を投与した患者に重篤感染症、死亡率、悪性腫瘍、主要な有害心血管事象および血栓症が観察されている。

 

www.fda.gov