デルマニアのブログ

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とある皮膚科医のブログです。

アトピー性皮膚炎の治療薬で精神状態も改善 デュピルマブによる検討

研究の背景:デュピルマブはアトピー症状だけでなくQOLも改善

 一般成人におけるアトピー性皮膚炎の有病率は7%とされる。その原因として遺伝的負荷、T細胞の異常、環境要因、食事などとの関連が指摘されているが、詳細はいまだ不明である。アトピー性皮膚炎には気管支喘息アレルギー性鼻炎の合併がよく知られるが、近年は精神疾患の併存、特にうつ状態や不安障害が注目されている。

 アトピー性皮膚炎に合併する精神疾患には、生物学的な要因だけでなく疾患に対する心配や疾患を有することによる精神的負担などが関係していると考えられる。例えば、夜間に搔破することで不眠になり、うつ状態を惹起することや不眠や疾患そのものから逃避するために薬物依存に陥ることが指摘されている。また、アトピー性皮膚炎に関する知識や改善方法を求めてインターネットで検索をし、過剰に時間を費やす例もある。

 そうした中、抗IL-4/13受容体抗体デュピルマブがアトピー性皮膚炎の症状だけでなく、QOLを改善するとの報告が発表された(Simpson EL,et al. 2016)。また、免疫に関連する制御因子が精神疾患を改善する可能性も指摘されている。

 デュピルマブ治療によりアトピー性皮膚炎患者の精神状態が改善する場合、その理由としてデュピルマブ治療により①アトピー性皮膚炎の炎症と精神症状が軽減する、②夜間の搔破による睡眠障害が感情障害を悪化させているのが改善される、③アトピー性皮膚炎への長期間罹患によるストレスが改善する―ことが考えられる。

 そこで今回、デュピルマブによる治療がアトピー性皮膚炎患者の精神状態をどのように変化させるかを検討した論文を紹介する(International Clinical Psychopharmacology 2024; 39: 201-205)。

研究のポイント:質問紙などを用いて評価

 対象は、イタリア・ミラノの皮膚科外来に通院している重症のアトピー性皮膚炎患者66例。デュピルマブ治療を予定している/1カ月以内に受けた群(24例)とデュピルマブ治療を1年間受けた群(42例)に分け、アトピー性皮膚炎の重症度や精神的健康度について評価した。精神疾患の併存は除外規定にしなかった。

 使用した評価尺度は以下の通り。痒みや出血などアトピー性皮膚炎の自覚症状評価(POEM)、痒みの数値評価尺度 (itch-INRS)、患者全般性評価(PGA)、湿疹面積・重症度指数 (EASI)、直近1週間のQOLの低下度を評価する質問票(DLQI)、不安と抑うつの評価尺度(HADS)、睡眠の質数値評価尺度(SQ-NRS)、インターネット依存度テスト(IAT)、薬物乱用検査(DAST)、うそ/賭博質問票。

結果:デュピルマブ治療期間が長い方が精神状態は良好

 全体では不安が25.8%、抑うつ状態が30.3%、インターネット依存が45.5%に見られた。1年間デュピルマブ治療を受けている患者のうち2例が精神科に通院しており、うち1例は全般性不安障害シタロプラムによる治療を、1例はパニック障害で精神療法を受けていた。物質関連障害が見られた3例のうち2例はデュピルマブ治療を1年間受け、1例はデュピルマブ治療を受ける予定の患者だった。病的賭博は見られなかった。

 解析の結果、不安症状のない患者と比べ、不安症状のある患者はより重度のアトピー性皮膚炎の症状があり、有意に睡眠障害QOLの低下、重度のうつ状態が多く見られた(それぞれP=0.028、P<0.001、P<0.0001)。また、有意に女性の割合が高く、デュピルマブ治療を1年間受けた患者が少なかった(それぞれP=0.016、P=0.025)。

 うつ状態でない患者と比べ、うつ状態の患者はより重度のアトピー性皮膚炎の症状があり、有意に睡眠障害QOLの低下、重度の不安症状が見られ、デュピルマブ治療を1年間受けた患者が少なかった(それぞれP=0.003、P<0.001、P<0.001、P=0.008)。

 インターネット依存に関しては、それぞれの項目において有意差は示されなかった。

 デュピルマブ治療に関して、予定している/1カ月以内の患者と比べ、1年間受けた患者は、POEM、itch-INRS、PGA、EASI、DLQI、HADS-うつ状態、HADS-不安状態、SQ-NRSにおいて、有意に軽度の状態だった。年齢、性、IgE、インターネット依存については有意差がなかった()。

表. デュピルマブの治療期間別の症状の違い

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International Clinical Psychopharmacology 2024; 39: 201-205)

私の考察:皮膚症状の改善が影響、生物学的変化の解明にも期待

 アトピー性皮膚炎患者に対するデュピルマブによる治療でQOLが改善することは前述の通りSimpsonらが2016年に報告しているが、詳細は不明であった。本論文では、インターネット依存に関しても検討している点が新しい。長期にわたるアトピー性皮膚炎患者は、日本でも引きこもりになっているケースが少なくない。多くは昼夜逆転し、夜中にインターネットサーフィンをしていることが多い。

 今回はデュピルマブ治療を予定している/1カ月以内の群と1年受けた群で皮膚症状や精神症状とインターネット依存に関して比較をしている。デュピルマブ治療期間が長い方が、皮膚症状だけでなくうつ状態、不安状態、QOL睡眠障害などが治療期間が短い/治療前の患者群よりも軽度だった点は納得できる。これは皮膚症状が改善したために起きた部分も含まれると思われる。

 ただし、近年は精神症状の生物学的な側面が明らかになりつつある。サイトカインや神経ペプチドなどが関与しているアトピー性皮膚炎の炎症反応だけではなく、脳内でサイトカインなどによる炎症反応が改善することにより、精神症状が改善した可能性も考えられる。Kiecka Aらは抗うつ薬である選択的セロトニン再取り込み阻害薬アトピー性皮膚炎を改善すると報告している(Kiecka A,et al. 2022)。それらも踏まえると、アトピー性皮膚炎と精神症状に共通した炎症関連物質の変化があるように思われる。

 今回、インターネット依存に関してはデュピルマブ治療期間での有意差は見られなかった。つまりアトピー性皮膚炎患者は治療効果にかかわらず、インターネットでの検索などを常にしている患者が一定数はいることを示している。

 本研究の限界は、ランダム化による盲検法の比較試験ではないことである。今後はさらにレベルの高いエビデンスが得られることを期待している。サイトカインを阻害する抗体製剤が、アトピー性皮膚炎だけではなく精神症状、QOL睡眠障害を改善している可能性があることが示され、他の皮膚疾患でも今後検討がなされるかもしれない。