デルマニアのブログ

デルマニアのブログ

とある皮膚科医のブログです。

ダニ舌下免疫療法の効果予測因子

はじめに

 アレルギー性鼻炎の治療法としては、抗原の除去・回避とともに、薬物療法、アレルゲン免疫療法、手術療法があります。このうち、臨床的な治癒が期待できる治療法はアレルゲン免疫療法です。アレルゲン免疫療法の投与ルートには、皮下注射法や舌下法などがあります。アレルギー性鼻炎については安全性の面などで、現在では舌下免疫療法が主流となっています。アレルギー性鼻炎に対するアレルゲン免疫療法は治療終了後にも効果が持続し、新規喘息の発症を予防する一方で、臨床的な治癒を期待するには3-5年間にわたる治療が必要で、まれにアナフィラキシーなど重篤な全身疾患が生じることがあります。また、全ての患者に有効な治療法ではなく、効果が見られない場合もあります。したがって、早期に治療効果が予測できる因子(バイオマーカー)の特定が望まれています。これまでに効果予測因子を検討した報告では、血清特異的IgE/総IgE比や血清特異的IgEなどが免疫学的パラメータになり得ることが示唆されていますが、報告ごとに結果は一貫しておらず、一定のコンセンサスはいまだに得られていません。

 今回ご紹介するのは、ダニ舌下免疫療法の治療開始3年後の効果予測因子を検討するため、治療開始時および治療開始1年後の指標を用いて後ろ向きコホート研究を実施した論文です。


論文の概要

 2009年から2013年までの間に、舌下免疫療法(SLIT)を3年間以上継続したダニアレルギー性鼻炎患者61例を治療に満足しているグループ(満足群)43例(70.5%)と治療に満足していないグループ(不満足群)18例(29.5%)の2群に分け、ベースラインと治療開始1年後に測定した免疫学的な指標およびその変動が効果予測因子になり得るか検討しています。

 患者は、(1)鼻症状(くしゃみ、かゆみ、鼻汁、鼻閉:総合鼻症状スコア[TNSS])、(2)QOL7領域(実生活の煩わしさ、睡眠、鼻症状、眼症状、全般的症状、活動、感情)、(3)SLITへの満足度(満足、まあまあ、不満足)についての質問票へ記入します。

 血液学的検査では、特異的IgE(sIgE)、特異的IgG4(sIgG4)、総IgE(tIgE)、好酸球顆粒蛋白(ECP)、末梢好酸球数について測定しています。

 その結果、満足・不満足の2群間の背景因子に有意差は認めませんでした。舌下免疫療法前後のTNSSとQOLのスコアは、当然ですがいずれも満足群の方が有意に改善しています(TNSS:P=0.023、QOLスコア P=0.007)。

SLITの開始1年後のヤケヒョウヒヒダニ(Dp)およびコナヒョウヒダニ(Df)特異的IgE値のベースラインからの変化量は、満足群よりも不満足群の方が有意な増加を示しました(P=0.006、0.045)。

 Stylianouらの研究(Scand J Clin Lab Invest. 2016; 76: 118-27.)では、シラカバやイネ科花粉の皮下免疫療法を受けた患者では、初期には特異的IgEが増加し、その後減少することが示されており、皮下免疫療法の前後(22-41カ月)での特異的IgE値の減少は、良好な転帰と関連することが報告されています。この研究では、満足群での変化量として特異的IgEの増加が少ないことから、満足群では不満足群と比較し減少量が多いことが考えられ、早期の特異的IgEの測定が必要だと著者は考察しています。また、この論文の限界点として、SLITは治療期間が長く経済的負担が大きいため、良好な効果を得られた患者のみが治療を継続している可能性と被験者数が比較的少ない点が挙げられています。
私の視点

 舌下免疫療法の効果予測因子に関して、ダニアレルギーでの検討は珍しく、新規性があると言えます。一方で、批判的に吟味すると、この研究では治療開始1年後の症状やQOLが検討されていません。これが治療3年後の効果予測因子になれば、わざわざ採血をする必要はなくなります。また、大前提として、治療開始1年後の結果が果たして効果予測と言えるのかという点も議論になると思います。この研究では副反応については触れられていませんが、IgEの変化量と副反応の関係性も気になります。


まとめ

 舌下免疫療法は、治療期間が長いものの効果には個人差があるため、治療前の効果予測因子の解明は、患者、医療者双方が待望しており、医療経済の面から考えても重要です。今回の論文からは、舌下免疫療法前後の血清特異的IgEを測定し、その変化をモニターすることは、長期的な治療効果を客観的に予測する上で一考の価値があると言えます。

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

コメント:

私も舌下免疫はスギ・ダニともにやっています。もう花粉症はほぼノーダメージです。

効果予測因子など、今後の研究にさらに期待ですね。