デルマニアのブログ

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JAK、バイオでがん・CVDリスク上昇せず 韓国・関節リウマチ患者約20万例のデータを分析

 欧州リウマチ学会(EULAR)が発表した最新のレコメンデーションでは、関節リウマチ(RA)治療において、メトトレキサート(MTX)および従来型合成抗リウマチ薬(csDMARD)を用いても疾患活動性の低下や寛解が達成できない場合に、JAK阻害薬や生物学的製剤(bDMARD)が推奨されている(Ann Rheum Dis 2023; 82: 3-18)。他方で、こうしたRAの薬物治療では有害事象の発生率が上昇する点も懸念されている。 韓国・Yonsei University College of MedicineのSung Soo Ahn氏らはRA患者約20万例のデータを用いて、がんおよび心血管疾患(CVD)の発生リスクをcsDMARDとJAK阻害薬/bDMARDで比較しEULAR 2023(5月31日~6月3日)で結果を発表。「がんおよびCVDの発生リスクはcsDMARDに比べ、JAK阻害薬、bDMARDで低かった」と報告した。

10万例ずつ2つのデータセットを作成

 RA患者はさまざまな疾患や症状を併発しやすいことが知られているが、炎症や免疫異常といった従来の危険因子以外にも、薬物治療が予後に悪影響を及ぼす可能性が示唆されている。bDMARDである腫瘍壊死因子(TNF)阻害薬で治療された患者は主要心血管イベント(MACE)とがんの発生リスクが、JAK阻害薬に比べ高かったと報告されており(N Engl J Med 2022; 386: 316-326)、治療薬の選択についてはこれまで、多くの議論がなされてきた(関連記事「トファシチニブ、TNF阻害薬よりがんなど増」)。

 そこでAhn氏らは今回、csDMARDと比べbDMARDおよびJAK阻害薬の使用が、RA患者の心血管疾患やがんのリスクを上昇させるかどうかを検討した。

 韓国政府が運営する全国医療請求データベースを用いて、2008~20年の13年間に血液検査で陽性の新規RA患者を抽出。2年間のウォッシュアウト期間を適用して18歳未満の患者を除き、がん既往があるRA患者を除いた10万1,816例のがんデータセットと、CVD既往があるRA患者を除いた9万6,220例のCVDデータセットを作成した。治療薬はcsDMARD、bDMARD〔TNFαの阻害薬、非TNFαの阻害薬(アバタセプト、トシリズマブ)〕、JAK阻害剤(トファシチニブ、バリシチニブ、ウパダシチニブ)が含まれた。

bDMARD・JAK阻害薬でがん発症IRRは0.88

 がんデータセットを用い、フォローアップ中にがんを発症したRA患者4,817例と未発症のRA患者9万6,999例でベースライン特性を比較した結果、がん発症RA患者は有意に年齢が高く、男性が多く、高血圧、糖尿病を合併している割合が高かった。MTX、タクロリムス、レフルノミドなどのcsDMARDとbDMARD、JAK阻害薬で治療された割合は未発症RA患者で有意に多かったが、これについてAhn氏は「追跡期間が長いためだ」と述べた。

 上位10種のがんについて年齢と性を調整して10万人・年当たりの発生率を見たところ、JAK阻害薬またはbDMARDで治療された患者はcsDMARDのみで治療された患者に比べ肺がん〔218.87 vs. 202.93、発生率比(IRR)1.08、95%CI 1.04~1.12〕、肝臓がん(48.40 vs. 37.55、同1.29、1.19~1.39)、前立腺がん(114.61 vs. 85.50、同1.34、1.27~1.41)、皮膚がん(53.92 vs. 32.98、同1.63、1.51~1.77)の発生率が高かった。ただし、がん全体で見るとIRRは0.88(95%CI 0.86~0.89)と、JAK阻害薬またはbDMARDで治療された患者ではcsDMARDで治療を受けた患者に比べ低いことが分かった(表1)。

表1. 治療薬別に見た上位10種のがんの発症数とIRR

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 さらに、時間依存性のCoxハザード分析では年齢(高齢)、男性、糖尿病はがんリスク増加と関連しているものの、薬物療法は関連していないことが示された。

CVD発症IRRは 0.91

 続いてCVDデータセットで、CVDを発症したRA患者5,297例と未発症のRA患者9万923例のベースライン特性を比較すると、がんと同様にCVD発症RA患者は年齢が高く、男性が多く、高血圧、糖尿病を合併している割合が有意に高かった。MTX、ヒドロキシクロロキン、タクロリムス、bDMARD、JAK阻害薬で治療された割合は未発症RA患者で有意に高かった。

 年齢と性を調整した10万人・年当たりのCVD発生率は、評価した深部静脈血栓症(DVT)、肺塞栓症(PE)、複合心血管イベントのいずれにおいてもcsDMARDで治療された患者に比べJAK阻害薬またはbDMARDで治療された患者で低く、がん全体と同じくCVD全体のIRRも0.91(95%CI 0.90~0.92)と低かった(表2)。

表2. 治療薬別に見たCVDの発症数とIRR

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(表1、2ともEULAR 2023の発表を基に編集部作成)

幾つかのがんはcsDMARDより高リスク

 以上から、Ahn氏は「がんおよびCVDの全体リスクはcsDMARDで治療しているRA患者に比べ、JAK阻害薬またはbDMARDで治療しているRA患者で低いことが分かった」と結論。しかし、肺や前立腺、皮膚など幾つかのがんはJAK阻害薬またはbDMARDで治療した患者において発症リスクが高いことについては今後さらなる検討が必要だ、と付言している。